記事のポイント
- 富士フイルムはインドで、移動式健診センター「NURA Express」を始動した
- 同社はこれまでインド、モンゴルなど新興国で健診施設を展開してきた
- 健診文化を世界に広げ、がんや生活習慣病の早期発見につなげる
富士フイルムはこのほど、インドで移動式健診センター「NURA Express(ニューラエクスプレス)」を始動した。同社は、新興国で健康診断を受ける文化が定着していないことを課題と認識し、これまで、インド、モンゴル、ベトナム、アラブ首長国連邦で、自社の画像診断装置を備えた健診施設「NURA(ニューラ)」を展開してきた。移動式の健診バスの導入で、新興国の都市部から離れた地方にも健診の機会を広げ、人々のがんや生活習慣病の早期発見につなげる。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

(c) 富士フイルムホールディングス株式会社
富士フイルムが新興国で展開する健診センター「NURA」に、10番目の拠点が加わった。初の移動式健診センター「NURA Express」だ。まずはバス1台で、インドで展開し、需要や稼働状況を見ながら、台数や展開エリアの拡大を検討する。
富士フイルムでは2021年、同社のCT・マンモグラフィーなどの医療機器や、医師の診断を支援するAI技術を活用した、健康診断センター「NURA」をインドで初めて開設した。
「NURA」では、すべての検査と医師による健診結果のフィードバックまでが、わずか120分で完了する。また利用者は、健診結果について、診断画像を見ながら医師の説明を受けられる。このスピードとわかりやすさが好評で、2025年4月時点で、約10万人が利用した。
「NURA Express」は、「NURA」とは異なりCT検査のみを提供する。1回当たりの健診費用は約50ドル(約7200円)だ。都市部から離れた地域に拠点をもつ現地企業と提携し、そのオフィスや工場で働く従業員の企業健診として、CT検査によるがん検診・生活習慣病検査サービスを提供する。
整備の行き届かない道路を走行してもCTが故障することのないよう、耐振性の車両に改良するなどの工夫を施したという。
同社では、都市部を中心に展開する「NURA」と、移動式の「NURA Express」を組み合わせ、より多くの人に、高品質な健診サービスを届けていく。

「NURA Express」のイメージ図
(c) 富士フイルムホールディングス株式会社
■インドの健康課題に「NURA」が挑む
「NURA」の10拠点のうち、6拠点はインドに位置する。そのインドは、世界で最も大気汚染が深刻な国として知られる。
空気質関連事業を展開するアイキューエア社(本社:スイス)が2025年3月に公開した「世界の空気質に関する最新報告書(2024年版)」によると、調査対象の8万超の都市(データポイント)のうち、世界で最も大気汚染が深刻な都市のトップ10に、インドからは首都ニューデリーを含む6都市がランクインした。汚染都市トップ50で見ると、インドからランクインした都市の数は35に上る。
報告書は、インドにおけるPM2.5の濃度は前年から7%減ったものの、大気汚染は「健康への重大な負担」として、「平均寿命を約5.2年短縮している」と指摘する。
また米メディアのシンク・グローバル・ヘルスは、インドでは、人口全体に占めるがんの発生率が過去30年でほぼ倍増し、汚染の悪化や食生活・生活習慣の悪化でがん患者がさらに増えるとの予測を報じる。
同メディアはまた、資金不足で設備が不十分なインドの政府系病院では、血液採取後、結果が出るまで1週間、CTスキャンは3ヶ月以上、MRIスキャンは2年以上待つことが一般的だと紹介する。
■従業員がヘルスコンシャスになった事例も
インドの「NURA」では、周辺地域の病院や企業に対しても、健診の重要性を訴える啓発活動を行ってきた。重要性を理解した企業が、福利厚生として従業員向けに導入する事例が増えており、また実際に「NURA」の健診サービスを体験した人が、家族や友人などに受診を勧めるケースも多く出てきたという。
富士フイルムの広報はオルタナに、同社のインド拠点の従業員が、「NURA」を通じてヘルスコンシャスになった事例を紹介する。
従業員200人が「NURA」で健康診断を実施したところ、77%が内臓脂肪過多(肥満)にあることが判明したが、一人ひとりに内臓脂肪画像を見せながら食事制限や適度な運動を推奨した結果、翌年にはそのうちの65%の従業員が、ダイエットに成功したという。
■「SDGsアウトサイド・イン」の好例に
富士フイルムの「NURA」の事業は、社会課題を起点にビジネス創出を図る「SDGsアウトサイド・イン」の好例と言える。
SDGsの公式文書にも記載のある「アウトサイド・イン」とは、既存の事業活動を起点にするのではなく、社会課題を起点にして、事業のあるべき姿・製品・サービスを考えていくアプローチをいう。
新興国では、健診サービスを提供する施設が少なく、健診を受ける文化そのものが定着していない。富士フイルムはそうした社会課題を、「NURA」の開設で打開を図った。
同時に、「NURA」に導入した同社の医療機器を世界各国の医師に利用してもらうことで、その認知を高め、同社の事業成長へとつなげる。