この畑を案内してくれたのは、福島県浪江町出身の松本幸子さん。東京での社会人経験を経て農業者への転身を決め、4月から「ふくしまオーガニックコットンプロジェクト」に参画している。実家が農家だったが、10年ほど前に離農したことを松本さんはとても残念に思っていた。いつか農業をやりたいという夢を実現するため、証券会社を辞めて日本農業経営大学校に入り直して勉強したという。いわき市内の30アールの畑を地主から借り受けて、彼女がひとりで栽培している。

「(松本さんが)コットンの支柱を何本も抱えて運ぶ姿はたくましいですよ」と、いわきおてんとSUN企業組合理事の金成清次さんは話す。地元いわき市出身の彼は、青年ボランティアによる「チーム結(ゆい)」のメンバーとして震災後、原発から南に30kmの同市久乃浜地区で倒壊した家屋のがれき掃除をしてきた。被災者への物資配布を手伝っていた際に、同組合代表理事の吉田恵美子さんと知り合い、一緒に活動することとなった。
■木製紡績機が懐かしい雰囲気を醸し出す

金成さんに誘われて今やすっかりオーガニックコットンに魅せられているという酒井悠太さんが、オーガニックコットンを綿糸に加工する糸紡ぎ小屋を案内してくれた。中には、和綿の歴史を知ってもらうために、旧式の木製ガラ紡機が置かれている。からくり仕掛けのように糸を紡ぐ動きは、ガラガラという音とともにどこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。
ガラ紡機は明治時代に東海地方を中心に普及していたが、今では全国に数台しか現存しておらず、同組合がその機械をもとに再現した。酒井さんはコットンを櫛上のローラーで均一に伸ばしたあと、くるくると巻いて筒状の管に納めて機械にセットした。繊維を上部に設置されたローラーが巻き取って糸になっていく。紡績機を動かす動力は、外に設置されたソーラーパネルがつくる電力だ。
■天ぷら廃油で走る車に子どもが興味津々