途上国には貧困、電気、水、住居、教育など数えきれないほどの社会課題がある。そこに日本の企業の有為な人材を派遣、現地の人たちと協力しながら、本業のスキル、ノウハウ、アイデアを活かして解決策を見つけようという、これまでになかった「留職」というコンセプト。それを考え出したのがクロスフィールズだ。現地社会を変革する一方で、日本でくすぶっていた人材がこれを機に覚醒するという派遣元の企業も驚く効果も生んでいる。(聞き手=CSRtoday編集長・原田勝広)

原田 「留職」とはなかなか興味深いコンセプトです。これが生まれた背景は?
小沼 大学を卒業後、青年海外協力隊でシリアに派遣されました。現地のNPOに欧州企業からドイツ人の経営コンサルタントがプロボノで来ていたのです。
利益を追求する企業と国際協力というのは、それまで私の中ではまったく異なった存在。ところが、コンサルタントが導入したビジネス手法で村の生活がどんどん改善されるわけです。営利と非営利が交わることで新しい価値が生まれる現実を感覚的に知ることができた。これを日本や世界を舞台に仕掛けていきたい。そう考えました。
■目の輝きを失った学生時代の仲間たち
原田 帰国からクロスフィールズ創業までにタイムラグがありますね。創業までにかなりの紆余曲折があったわけですか。
小沼 帰国して学生時代の友人に会いました。かつて社会をよくしたいという熱い思いを共有した仲間でしたが、シリアでの刺激的な体験を話しても驚くほど反応が冷ややか。企業に就職して数年が経った彼らは既に目の輝きを失い、「なに青臭いこと言っているんだ。もっと大人になれ」という。
憤りを感じ、私がシリアで感じた人生の豊かさや働くことに対する情熱について彼らとももっと語り合いたい。そう思いました。そこで立ち上げたのがコンパスポイントという勉強会です。
原田 今も続いている勉強会ですね。延べ1000人というのは大変な数です。何より、留職という新たなコンセプトのインキュベーションの場となった。
小沼 コンパスポイントの仲間の支えは大きい。留職というアイデアを持って企業訪問をくりかえした。「おもしろい」と言ってくれる企業もあったが、断られることが多かった。そういう時、コンパスポイントのメンバーが、うちの会社でも提案してみるよ、と協力してくれたのです。いやあ、うれしかった。