■住民との議論でできた施設の3本柱
もちろん、一定の収益を上げなければならない。地域住民がこれならお金を払おうと思えるサービスは何か。海老名だからこそ、この施設だからこそできることは何か。議論を重ね、考え抜いて生まれた構想が、地元の特産品が味わえるレストラン、様々な業種の人々が集えるコワーキングスペース、そして子どもの知的好奇心を育む空間の3本柱だった。
「リコーグループ創業の精神、『人を愛し、国を愛し、勤めを愛す』、これを三愛精神と言いますが、地元食材によるレストラン、子どもたち、コワーキングはいずれも当てはまる。子どもたちの教育を中心に、地元の皆様、当社、この場に集まる人々で、海老名の街を創っていく。海老名とリコーでイノベーションを起こす。それがコンセプトになりました」
そこに至るまでには、中村氏が思い描いていたアイデアを具現化するパートナーの存在があった。東京・代々木に本社を置く建築プロデュース会社、UDSである。
「UDSは設計のみならず、自社でホテルなども運営して施設運営の現場を知っている。『フューチャーハウス』というネーミングもUDSから提案されました。地域の皆様と未来を創る家。直感的にいいなと思いました。その提案になかなか首を縦にふれないこともありましたが、お互いの理想ややりたいこと、地域の皆様の希望は理解し合えている。あとは彼らの熱意に任せました」
■フューチャーセンターとは「対話の場」
UDSの中川敬文社長は、中村氏との出会いを次のように語った。「初めてお会いした頃は、まだ施設の内容を模索されている感じでしたが、じっくり話をお伺いしているうちに、これは『フューチャーセンター』の概念だとピンときました」
フューチャーセンターとはオランダで発祥した「対話の場」の概念という。具体的には、地域住民が集まって話し合い、まちづくりに自ら参画する場のことだ。海外では産官学連携で取り組んでいるケースが多く、レベルも高い。中川氏はかねてフューチャーセンターに興味を持ち、その手法を学んでいた。そんな時、リコーから一緒にやらないかと声が掛かった。最も心を動かされたのは、中村氏の「地域と一緒にイノベーションを起こしたい」という言葉だという。

「社会貢献と企業の利益、つまり社会性と事業性は一致するはずだと考えてきたので、このプロジェクトはまさにその具現化だ、と」
中川氏はこれまでの知見を活かし、ディスカッションを繰り返しながら地域住民を巻き込んでいく。慶応義塾大学SFCの井庭准教授にも協力を仰ぎ、「フューチャーランゲージ」という手法を用いた。端的に言うと、未来のビジョンを語るための言葉をみんなで作るというものである。
「理想の未来について語り、課題を洗い出し、実現するためのアイデアを出して、名前をつける。名前をつけることで我々事業者も含め、参加者全員でアイデアやその発想の元になった課題を共有できるし、決して忘れないんです」
集められたアイデアから生まれたのが「コサイエ」だ。コサイエというネーミングは、「共同」を意味する「co」と子どもの「こ」、サイエンスの略である「scie」(サイエ)を合わせた造語で、共に学ぶ場という意味を込めている。遊び場ではなく、学ぶ場にする。その意見は一致していたという。ただ、運営面では難問も浮上した。
■住民ニーズに基づき午後9時閉館に