子育て中の親に聞くと、平日も休日も家事や学校への子どものお迎えなどで自分の自由な時間はほとんど取れない。週に1日でも早く帰ることがなかったら、自分のスキルアップのためのスクールへ行ったり、職場の懇親会に参加したり、友人と会うことも出来る。そこで船戸さんは、子どもが夕食を食べて習い事に行くまでをサポートし、子どもを地域のみんなで育てる仕組みを作ろうと考えた。
■空手の稽古と週1回の夕食をセットに
さっそく、自分が手伝っている文京空手池田道場に通う子どもたちを対象に、近隣で夕食を食べさせてもらえる場所を探した。「風のやすみば」の加藤さんに相談したところ、最初は子どもを預かることに抵抗があると言われたという。
そこで2014年4月から7月までの1学期の間だけ試験的にやってみることになった。父母には好評で、7月に開いた保護者会では継続してほしいという強い要望が寄せられた。自信をもった船戸さんたちは、空手道場での稽古(体育館までの引率付き)に毎週水曜の夕食を付け、毎月6000円の料金で本格的にスタートした。
学童保育などを終えた小学生は、午後5時半頃からカフェに集まって、全員揃って夕食を取る。料理を作るのはNPOで雇用している調理スタッフと、町会役員でもある小野寺加代子さんだ。

昼食時などは大人の利用が多いため野菜中心のヘルシーなメニューだが、夕食は育ち盛りの子ども向けに、肉などを加えてボリュームを出すとともにバランスも考えているという。アレルギー対応はもちろん、出汁からきちんと作り、ごはんは有機米を使うなど、毎日食べたいと思えるものを提供している。
この日は「トマトは嫌い」という男の子がいたが、頑張ってプチトマトを食べてみせた。「すごい、食べられたね」とスタッフから声がかかる。何気ないやり取りの中で、子どもたちは少しずつ成長していくようだ。

食事を終え空手道着に全員着替え終えた頃、空手道場の池田俊幸先生が子どもたちを迎えに来た。そこから空手教室となる体育館までは徒歩10分ほど。交通量の多い大通りを渡り、住宅街や八百屋の前を通って到着した。この仕組みを提案された時、池田先生は道場に通っている生徒たちの利便性が向上するならと協力を申し出た。口コミ効果に加え、休日は親も一緒に参加するようになるなど、結果として空手道場の生徒も増えたという。
■親にも時間的な余裕が生まれる