IUCN(国際自然保護連合)が定義する「絶滅のおそれのある野生生物のリスト」には、2014年11月時点で約2万2千種が登録されている。生物多様性の確保は喫緊の事項だ。本コラムでは、味の素バードサンクチュアリ設立にも関わった、現カルピス 人事・総務部の坂本優氏が、身近な動物を切り口に生物多様性、広くは動物と人との関わりについて語る。(カルピス株式会社 人事・総務部=坂本 優)

1980年、「桜田門」と異称される警視庁の新庁舎前に大きなクスノキが九州から移植された。もちろん、東京にも江戸時代から記録に残り、戦災もくぐりぬけた立派なクスノキが少なからずある。ただ、そのように風雪に耐えて生き抜いてきた、言わば歴戦のツワモノのクスノキならともかく、九州の風土になじんで成長したクスノキの大木を、東京の、それもビルの谷間のような場所に何本も移植して無事根付くのだろうか。私にとって懸念とともに、東京が暖かくなっているのだ、と妙に実感される印象的な出来ごとだった。
クスノキと聞くと、私の場合、自然に楠木正成の名前が思い浮かぶ。楠木正成には、御家人説、非御家人説など諸説あるが、戦後の研究によれば、時に武装しながら商業や運送業などに従事し、「悪党」とも呼ばれた人々や集団のリーダーだったのではないか、との説が有力だ。もとより、この場合の「悪党」は、幕府や荘園領主などによる支配体制から、ある程度自立し、時として反抗する実力をもった集団のことで、そのまま山賊や強盗を指す言葉ではない。