牧草は家畜の効率的生産のために、早く大きく成長するように品種改良されたものが多い。ヒトの手が加わった分、生命力、競争力は劣るようにも思えるが、人間の手によって改変された環境のなかで、それらの植物のいくつかは、在来種を圧倒して、あるいは在来種と雑種化しながら定着した。風や雨水の流れ、生きものの移動とともに自生地を拡大し、遠い下流の河原にまで分布を広げたものもある。

法面緑化自体は、土壌の流出、土砂崩れを防ぐ必要などから行われたものであり、このこと自体は非難されるべきものでは全くない。しかし、生物多様性保全との視点からは、危惧すべき状況もあったことは事実だ。
転機は2004年に訪れた。外来生物法の公布だ。これによって、生物多様性保全や外来生物対策が求められるようになった。その後、関係省庁により、「生物多様性に配慮した緑化植物の取り扱い方針」が取りまとめられた。
自然公園における法面緑化についても、2009年に自然公園法が改正され、自然公園の目的に「生物多様性の確保に寄与すること」が追加されたことから、従来からの、「周辺環境との調和」に加え、「生物多様性保全への配慮」が求められることとなった。
このような流れの中で、昨年(2015年)10月、環境省は、従来からの取組みを改めて確認、整理している側面もあるが、「自然公園における法面緑化指針」を策定した。周辺環境への調和等に加え、生態系、種、遺伝子の3つのレベルでの生物多様性の保全などが配慮されている。
工事の際に出る表土の活用(外来種侵入の防止)、地域性種苗の選定、地域に自然分布する個体群のみからなる植物群落を「最終緑化目標」として設定すること、それに向けた遷移が見込める植物群落を初期緑化目標として設定すること等が規定された。それらとともに、初期目標達成後は、植生の推移をモニタリングすること、なども明記された。

なるように工夫された擁壁(東京都板橋区内)
私が注目したいのはこの「モニタリング」だ。モニタリングの際に植生のみならず土壌生物を含む生きものの再生状況を総合的・継続的に観察することで、地域の自然環境の成り立ちから、保全・復元のために有益な情報も収集し得る。
削り取られた山肌は、長年、自然破壊や開発の象徴でもあった。しかし、そこでの緑化が、生物多様性の保全や復元に関する、研究と実践の場となるならば話は別だ。
防災が最優先されることに異論はない。維持管理コストからの制約も承知している。
しかし、少なからぬ「法面」が、開発の象徴ではなく、地域の自然環境再生の拠点として、また、世代を超えた環境学習と交流の場としても活用されている、・・・そんな取組と未来を期待したい。