残暑の厳しい9月のとある夜、東京・赤坂にあるサントリーホールの小ホールで、ちょっと風変わりなピアノ演奏会が行われた。最前列に陣取ったのは観客ではなく、5体の小型ロボット。実はこのロボットを通して、ホールから離れた都内や千葉、さらに遠い北海道に住むALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者など5人が、まるでそこに座っているかのように、演奏会を鑑賞していたのである。(CSR48、リコージャパンCSR推進部=太田康子)
■ロボットが首振り、手振りで意思伝達

ロボットの名は「OriHime(オリヒメ)」。高さ20.5センチ・幅17センチ・奥行11.5センチと小型だが、頭部にカメラやスピーカー、マイクが仕込まれており、胴体部分からは一見、羽のような手が伸びている。演奏の模様をリアルに伝えるとともに、遠隔操作で首を振ったり、手をパタパタと動かして拍手のような動きもできる。つまり、遠隔地にいる人でも、その場で意思疎通ができるコミュニケーションロボットだ。重さは約600グラムと軽く、手軽に持ち運びできるため、離れた仲間や家族と一緒に同じ体験を楽しむことが可能だ。
千葉県の自宅からOriHimeを通してサントリーホールのピアノ演奏を聴いた大山良子さん(46)は、「演奏会に参加すること自体が初めて。楽しみにしていました。やはり生の演奏は素晴らしい。ロボット経由でもピアニストの方のドレスのレースがとても綺麗に見えました」と話す。
北海道八雲町の病院から参加した吉成亜美さん(23)は、かつてはコンサートや舞台を観に会場へ足を運んだ経験もあるという。「普段は電動車椅子に乗っており、自由に動くことはできますが、首を動かして周囲を見回すことはできません。でもOriHimeは周囲の音声を聞くのはもちろん、視界も広がるので、席の後ろにいる観客の様子を見ることもできました」。
自分の動きがOriHimeの首や手を動かす反応となったので、周囲の観客から「可愛い」と言われたという。「私だけど、私じゃない分身がほめられている感覚はなんだか不思議でした」。拍手や手を上げるといった、言葉以外でのコミュニケーションが行える点も、コンサートに参加している気分を高めてくれたそうだ。