東京でも、公園や並木などで気を付けていると、特にオスは、決して観察のむずかしい野鳥ではない。オレンジ色の腹部や銀白の頭頂部の他、とまっているときは、たたんだ翼の中ほどの白い部分がよく目立つ。この部分は、羽織の紋のようにも見えることから、モンツキドリ(紋付き鳥)とも呼ばれて親しまれてきた。
バイカル湖の西岸からヨーロッパにかけては、近縁のシロビタイジョウビタキが分布する。見た目はジョウビタキとよく似ているが、この白い部分がないことが、識別にあたっての大きなポイントだという。

かつて両種は、同一の種に属していて、いつの頃からか地域的な差が現れ、亜種として、そして種として、それぞれに遺伝的特性を備えるようになったのだろうと考えられる。彼ら自身は、どのように自分たちの仲間を識別し、また伴侶を見つけているのだろうか。
また、ジョウビタキにとっては、この白斑はどんな意味があるのだろうか。
そう思うと、「紋付き鳥」の見慣れた白斑も、生物多様性の源泉の一つである種や亜種の分化の謎に思いを巡らすきっかけとして、新たな興味をかきたてる。