
前々回、環境よりも社会面のレジーム形成(社会的公正)の遅れが、昨今の流動化・不安定化の一因であると指摘しました。不安定化や脅威を前にすると、目先の利害が前面に出やすく、排他性や攻撃性に傾きがちとなります。
まさに悪循環の罠にはまりやすい事態なのですが、冷静さを取り戻すという意味では、より長期的な視野から歴史の根底を流れている水脈に目を向けることが重要となります。対立や排他性への傾斜から脱して、より包括的な視野ないし多元的視点を確立していく時代潮流は、一体どこに流れているのでしょうか?
社会的レジーム形成が難しいのは、社会的な正義、公正、平等をめぐる論点は多義的で、大きな幅があるからです。歴史的には「資本主義」対「社会主義」の対立がありました。世界を見わたせば、民主主義体制ほぼ拡大してきた経緯なのですが、その制度や形態は多種多様です。しかも、民主主義が定着しだすか混迷状態にある国や、独裁体制に傾く国もあり、種々の政治形態の下で現代世界が形づくられています。
こうした流動的な世界なのですが、注目したい歴史的足跡としては、戦後の国連に代表される国際社会が長年追い求め、築き上げてきた共有価値の集大成ともいえる動きがあります。それは、連載第2回でふれた国連設立70周年時に満場一致で採択された「2030アジェンダ」とSDGs(持続可能な開発目標)において端的に示されています。
戦後の激動する国際社会は、国際政治での国家間の攻防とともに、紆余曲折しながら徐々に地球市民社会の形成へ向かう歩みを続けていきました。いわゆる国民国家の形成を主軸とした近現代史からの前進です。旧来の枠組み(ヘゲモニー・覇権国家)を超える兆しないし胎動が、見えにくいのですが、国連システムの一翼に形成されつつあると思われます。
国連は、いわゆる中核のハードなコア(基幹部分)とソフトな領域(関連諸活動)があり、多面的に国際社会の諸課題について取り組んできました(図1)。ハードなコア部分とは、安全保障理事会を代表とする第2次大戦下での国家連合としての基幹組織です。それは、残念ながら、近年の複雑化し錯綜する国際問題に対応しきれない硬直性を引きずっています。