
味の素の事例から
最近、中期経営計画にESGやCSVの内容を含める企業が増えています。投資家がESGに関心を持ち始めていることや、経営としてのCSVへの関心の高まりを反映したものでしょう。しかしながら、今のところは、ESGやCSVに関する記述を、付け足しのように1枚または数行加えるに留まる企業がほとんどです。(水上 武彦)
味の素も2014-2016中計では、「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」というビジョンを掲げましたが、やや経営計画の中では浮いている印象がありました。
味の素は、アミノ酸という技術的強みを、食品、栄養・健康食品、飼料から医療品、化粧品、化成品、電子部材まで幅広く展開しているユニークな企業です。CSVの取り組みもいろいろと行っています。
例えば、私がバリューチェーンのCSV事例として、ときどき講演などで紹介しているのは、素材の使い尽くしによる「資源利用の効率化」です。味の素は、サトウキビやキャッサバなどの農産物を原料として、非常に資源効率の高い発酵法でアミノ酸を製造しています。
また、生産工程で出る副生物は、肥料や飼料として地域の農・畜・水産物を育むために活用するなど、資源をムダなく活かし切る取り組みを進めています。味の素グループでは、副生物をもう一つの製品=Co-Products(コプロ)と位置づけ、アミノ酸発酵製造の過程でできる副生物は、ほぼ100%、コプロとして再利用しています。
肥料・飼料以外にも、葉面から効果的に栄養成分などを吸収できる葉面散布剤など、高付加価値のコプロも生み出され、事業展開されています。
味の素は、これ以外にも社会価値と企業価値を両立させる取り組みを沢山行っており、そうした活動を私が所属するクレアンもご支援させて頂いて、投資家向けESG説明会で発表したところ、大きな反響を得ました。
このように社会価値と企業価値を両立させる取り組みを行ってきている味の素は、前回の中計で、CSVの味の素版である「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」というビジョンを掲げました。
前回は、まだ具体的施策に落とし込まれているという印象はありませんでしたが、味の素の西井社長は、「次の中期経営計画では、社会貢献や人材の多様性といった非財務系の目標も、明確に示す予定」としていました。