前回は、カヤの平高原牧場やブナの森づくりの背景に触れただけで終わってしまったが、今回はいよいよ本題のユニークなブナの森づくりをご紹介する。ずばり、ユニークなのは以下の3点だ。
① 苗は自給自足
② 下草刈り不要
③ 除間伐不要
カヤの平高原のブナの森づくりでは、日本の森づくりにおいて足かせとなることがことごとく不必要!エコロジーかつエコノミー、しかもサスティナブルな森づくりが行われている。

自給自足で持続可能な森づくり
通常、植林をするには、種苗店などから苗木を購入する。当然、購入するための費用が発生する。また、安易に種苗店の苗木を使用すると遺伝子攪乱の危険性がある。同じ種類の樹木でも気候条件が異なると性質が違う。例えば、冬に雪の多い日本海側地方で育ったブナと冬に雪は降らないが北風が強い太平洋側地方のブナでは性質が異なり、日本海側地方で生まれた苗を太平洋側地方に移植すると、うまく育たず枯れてしまうこともある。
スギやヒノキ、アカマツ、クロマツなど林業で用いられる苗木に関しては林業種苗法により配布区域が定められていて、配布区域を越えての苗木の移動は禁止されている。ところが広葉樹に関しては規制がなく、小山博士が以前調査したところ、とんでもない地域からの苗木が混じっていることもあった。
カヤの平高原牧場では、幸いなことに牧草地の林縁部には周囲のブナからこぼれ落ちた種が芽を出し、たくさんの稚樹が育っている。これらの稚樹を掘り採り、未利用牧草地内の表土を剥ぎ取ったエリアに移植することで遺伝子攪乱の心配もなく、苗木購入にかかる費用を不要となる。エコロジーかつエコノミーなユニークな植林が実現できる。しかも、ブナ稚樹を掘り出した場所にはいずれブナの種が落ち、数年もすればまた実生の苗となる。持続性のある苗の供給が可能なのだ。

下刈りせずともブナの森は育つ