自然が森をつくる過程をほんの少しお手伝い
カヤの平高原牧場の植栽地では前後左右50㎝間隔で稚樹を移植している。2m間隔で1m幅の地表を剥ぎ取って植えているので1ha当たりの植林本数に換算すると2万本となる。一般的にスギ、ヒノキが1ha当たり3000本、海岸林で1ha当たり1万本だからかなりの密植といえる。林業では植林後、5~7年の間、下草刈り作業を行い、10年目以降から除間伐の作業が必要になる。
現在、日本の森が荒れているのは、昭和30年代の拡大造林期に植樹した森が、その後、材価の低迷などの理由により除間伐などの手入れが疎かになったためひょろひょろとした木が密集したままになり、林床に光が入らない暗い森になってしまったからだ。ところがカヤの平高原牧場のブナは勝手に切磋琢磨して育っていく。力のある、もしくは運のいいものが育ち、そうでないものは日陰者となって枯れてしまう。自然が人の代わりに除間伐をしてくれると言ってもいい。長い時間をかけて森は適正な密度になっていく。カヤの平高原のブナの森づくりは、自然が森を広げていくのを人がほんの少し手伝っているともいえる。

カヤの平高原牧場のブナの森の未来史
手間のかからないブナの森づくりだが、だからといって簡単に森がつくれるわけではない。ブナは初期の成長が遅い大器晩成型の樹木だ。花が咲き、実をつけるようになるまで40~50年はかかる。私たちのブナの森の未来を予想してみよう。ブナの稚樹を移植してから数年間はあまり変化がない。10年ほど経つと植えた時よりも1mくらいは背が高くなる。そして20年後には、大きなものは6mほどに達する。21世紀の半分が過ぎる2500年には平均樹高が10mを超え、やっと花が咲き実をつけるようになる。樹高20~30mの美しいブナ林になるのは22世紀の声を聞いてからだろう。なんともスケールの大きな森づくりだ。
現代の人間の力をもってすれば森林を破壊することはたやすい。しかし、破壊してしまった森を元通りにするには労力と人間からすると気が遠くなる時間の流れが必要だ。ブナの森づくりを通じて、森の大切さも伝えることができたらと思う。