国際環境NGOグリーンピース・ジャパン広報担当の城野千里です。今回は、私がとても「グリーンピースらしい」と思う活動について紹介します。
グリーンピース・ジャパンは、東京電力福島原発事故以降、脱原発への取り組みに比重を置いてきました。そもそもグリーンピースのルーツは、1971年のアメリカ核実験への反対運動。私たちの反核への思いは強く、これまで世界中で、核実験反対や脱原発を目指して活動してきました。

■福島のお母さん、立ち上がる
10月上旬、私ともう一人の職員、そして福島のお母さんが、スイス・ジュネーブの国連ヨーロッパ本部に向かいました。国連の関連会議で、日本政府の原発事故被害者への対応が、「人権侵害だ」と訴えるためです。
今年は国連人権理事会が、日本の人権状況を審査する年(普遍的定期的審査)。グリーンピースは、国連の中でNGOが持つ最高位の「総合協議資格」を持っており、国際NGOとしての立場と知見を生かしてスピーカー申請を行い、この福島原発の被害者であるお母さん、園田さんが選ばれました。
福島原発事故から6年半たったいま、避難している方々はいまだに約5万人以上。避難指示区域外からの、いわゆる自主的避難者は含まれません。今年春には、避難指示が福島県の一部区域を除いて一斉解除され、住宅支援や賠償の打ち切りが次々に進められています。
いま、原発事故による避難者は、経済的なプレッシャーにより、帰るか、帰らないか、という選択を迫られています。これは特に、社会的弱者であり、また放射能の影響をより強く受ける女性と子どもに、耐えがたい困難を突きつけています。
子どもへの被ばくを心配して、驚くほど多くの方が「母子避難」をされている状況をご存知ですか。避難者の多くが経済的、社会的、心理的に苦しい状況に追いやられています。
園田さんは、そういった福島原発の被害者のみなさんの状況を国際社会に訴えるため、立ち上がってくれました。
■「日本政府の対応を世界の常識にしてはいけない」

「病気、貧困、自殺、家庭崩壊、離婚、いじめ、地域社会の崩壊。これらは、 福島第一原発事故が生んだ目には見えない被災者たちの困難です。でも、こうした問題が被災者の自己責任として扱われています。そのため、1万人以上の被災者が、日本政府と東京電力の責任を明らかにするため訴訟を起こしています。最小限の避難、最小限の補償、放射能は危なくないという原発事故に対する日本政府の対応が、世界の常識になってほしくありません」
10月12日、園田さんが、国連の各国政府代表者らに向けて訴えた7分間。とても迫力のある、心を打たれるスピーチでした。静まりかえる会場、みなさんが原発事故被害者の怒りと悲しみの声に耳を傾けてくれました。
園田さんは、特に女性や子どもの被ばくに関する健康の権利が守られていないこと、十分な健康調査の実施や情報公開が必要なこと、放射能汚染地域への帰還圧力の改善が求められること、を訴えました。
スピーチの舞台裏でも、グリーンピースと園田さんは、積極的に各国政府代表や国連の人権担当者らと個別のミーテイングを行い、直接問題を訴えました。

■大きな一歩前進を感じた日
そして迎えた11月14日。国連人権理事会の対日人権審査には、100カ国以上の政府代表者が参加。その中で、ドイツ、オーストリア、ポルトガル、メキシコの4つの国が、原発事故被害者の暮らしがまもられるよう、正式に日本政府に対して、支援政策の是正を勧告してくれたのです。
また、ドイツとベルギーは、福島原発事故の件で、日本政府に厳しい質問を投げかけました。これは、非常に大きな成果です。原発事故被害者への日本政府の対応が問われていることが、国際舞台で示されたのです。
さて、これからが本番です。
日本政府は、来年2-3月の国連人権理事会本会合までに、これらの勧告を受け入れるかどうかを表明しなければいけません。グリーンピースは、日本政府がこれらの勧告を受け入れて、きちんと対応するよう求めていきます。そのために、この勧告を一人でも多くの方に知ってもらえるよう、ロビー活動やメディアへの働きかけを続けていきます。
■「グリーン=環境」と「ピース=平和」の交差点で

ところで、この国連の人権状況審査(正式名は「普遍的定期的審査」)で、環境NGOはかなり珍しい存在でした。非常にたくさんの市民団体や活動家が参加していますが、その多くが人権NGOや人権弁護士などです。
この点が、数ある環境NGOの中で、グリーンピースがグリーンピースらしいゆえんかなと思います。つまり、「グリーン=環境」と「ピース=平和(人権)」が交錯する領域での活動に力を置いているのです。また今回のような、国際色豊かな、グローバルな組織力を生かした活動も特徴の一つです。みどり豊かで平和な世界を目指して、これからも取り組んでいきます。