労働力不足が慢性化する中、シニア世代のような「潜在労働力」への期待が高まっている。しかしながら、実際の雇用や再就職となると、躊躇しているケースも多いのではないのだろうか。そんな時、「働くための基礎体力」や「チームの中での適性」といった部分で情報があれば、働く側、雇う側、両者にとって有効な後押しになる可能性がある。そんな取り組みが岩手で始まっている。(一般社団法人RCF=荒井美穂子)
■50代~70代の約160人が参加

今回開催されたのはシニア世代向けの「からだ測定会」。慢性的な人手不足に悩む沿岸部で、シニア世代のさらなる社会参加のきっかけとなることをめざし、沿岸広域振興局が関係団体とともに企画した。
対象は50~74才の男女。脚力や柔軟性などの「体力」、計算力や判断力などの「処理力」、仕事場面で現れやすい「個性」を調べ、結果をもとに、その人が能力を発揮でき、活躍が期待できる職業分野について記された結果シートがもらえる、というもの。
この「からだ測定会」が1月に岩手県陸前高田市と釜石市の2カ所で開催され、約160人が参加した。
参加者たちはまず、柔軟性を試す体勢をキープしたり、手先を使う作業などを行ったりして体力を測定。さらに、タブレット端末を使うなど幅広いテストに取り組んだ。
参加者からは、「計算問題は難しかったね。体力測定はとても面白かった」、「仕事をしたいと思っていたから、今回いい結果が出て嬉しい」といった声が聞かれた。測定のサポートを担当した30代のスタッフも、「多くの皆さんが楽しそうに測定を行っていたのが非常に印象的。時々驚くような好結果を出すシニアの方がいて、刺激を受けた」と語る。
また、「(からだの)測定なんて久しぶり!何十年ぶりかしら!」と嬉しそうに話す女性など、就職につながるような新たな可能性の発見や意欲の向上という側面も感じられた。
一般的な体力測定の項目に加え、仕事場面を想定した測定などが、参加者にとっては新鮮だったようだ。
■潜在労働力の活用に期待

沿岸被災地は県内でも青壮年層の流出を背景に労働力不足が深刻だ。岩手労働局によると、昨年12月の県内有効求人倍率(原数値)は1.54倍だが、沿岸部の釜石は1.89倍、大船渡1.82倍と、震災後の人口流出による労働力不足が続いている。基幹産業である水産加工などでは、新工場を再建したものの、従業員が足りずにフル操業できないケースもあり、本格復興の足かせとなっている。
シニア世代を貴重な人材として再評価し、就労を促すことは、人手不足の解消だけでなく、引きこもりを減らすことで認知症などの予防にもつながるなど、コミュニティへの好循環も期待できる。
測定会を主催した沿岸広域振興局の二宮康洋産業振興課長は「能力や適職を知ることで、再び働く意欲を持つきっかけにしてほしい」と測定会の狙いを説明する。
測定会では、求人情報の提供や就職相談もおこなわれた。短時間勤務や業務の細分化により、時間に制約があっても得意分野を活かして働けるなど、これまで働きたくても働けなかった人たちが働き手となれるような柔軟な対応を目指す。
沿岸被災地の人手不足は深刻だが、高齢化と就労人口の減少は日本の「地方」共通の課題でもある。課題解決の「成功事例」となることが期待される。