■引きこもっていた人の生きがいにも

「事務作業に追われ、職員がやりたいことに時間を割けていなかった」と話すのは、特定非営利活動法人ブックスタート(東京・新宿)統括マネージャーの安井真知子さんだ。
職員の協力のもと、事務作業にかかる時間を計測し、その削減に取り組んだ。書式を改訂したり、提出期限を設定したりしたことで、一人あたり1時間程度の削減につながったという。その分、企画などに時間を割けるようになった。
「現状を定量的に把握することで、問題が整理されることを実感した。理想と現実のギャップ(問題)の大きなところから着手していくという考え方も勉強になった」(安井さん)
NPO法人Co.to.hana(コトハナ/大阪市)は、大阪市浪速区で、地域住民の「得意」と困っている人をマッチングする「ひとしごと館」を運営している。
だが、そのマッチング率は伸び悩み、活動会員の得意を生かし切れていない現状があった。そこで、「マッチングされる会員数を13人から23人にする」ことをテーマに掲げた。会員紹介の発信強化や、包丁研ぎ講座やアロマハンドケア講座などを実施した結果、18人がひとしごとに関われている状態になったという。
同NPOの田中さんは「脳梗塞を患い、自宅に引きこもってしまった男性が、医者に連れられて『ひとしごと館』に来た。包丁研ぎの仕事をするようになり、感謝や謝金といった反応を得て、生きがいを取り戻したようだ。介護業界でも、リハビリ終了後にどう活動するかが、問題になっている。地域とのつながりを取り戻す取り組みを続けていきたい」と活動の意義を語った。

■スポーツの楽しさを取り戻してほしい
「区民のための地域密着型クラブづくり」を掲げ、フットサルスクールを運営するのは、東海道品川宿スポーツクラブ(東京・品川)だ。
運営の安定化を目指し、「フットサルスクール小学生以下の会員増加」をテーマに掲げた。マネージャーの竹中茂雄さんは、「これまでは何か問題を見つけると、新しいサービスのアイデアが次々に浮かんで、問題についてじっくりと考えることがなかった。問題解決のプロセスを通じて、問題を整理して考える習慣ができた」と手応えを語る。
さらに「カイケツを通じて、自分たちが実現したいことやほかのクラブとの差別化もできた」と言う。
竹中さんは「競技志向が強いクラブでは、ミスをするたびに罵声を浴びるなど、厳しい指導も多い。当クラブにきて『初めてほめられた』という子もいる。プロを目指してサッカー漬けの生活を送る家族も多いが、一度離脱するとサッカーから離れてしまう。競技者を目指す人もそうでない人も楽しめるスポーツクラブにしたい」と意気込んだ。
中野昭男講師(のぞみ経営研究所所長)は「すぐに成果は出ない。ありたい姿を描き、現状把握を行い、導き出された対策を試す。決めたらまずは完結させることが大切。そうして次に進んでいってほしい」とエールを送った。
■問題解決は「働く喜び」に

「問題解決」はPDCA(方針管理)・SDCA(日常管理)そのもので、シンプルなステップである。だが、実践するのはそう簡単ではない。
特に、現状の姿を客観的かつ定量的に認識する「現状把握」に難しさを感じるNPOが多かった。関係者へのヒアリングなどを通して事実やデータを集め、実態にせまることが大事だからだ。現状把握が正しくできないと、対策が浮いてしまうことになる。
細見純子講師(中部品質管理協会企画部次長)は、「問題が整理されてくると、つい対策のアイデアに意識が向いてしまう。思い込みを捨ててじっくりと現状に向き合い、関係者と対話しながら『問題解決』を進めてほしい。『現状把握』と『対策立案』がつながり、行き来できる状態になっていることが大切」と強調した。
「『問題解決』の実践は、『働く喜び』につながる」
古谷健夫講師(トヨタ自動車業務品質改善部主査)は、問題解決が目指す姿をこう表現する。
「『改善』『イノベーション』などいろいろ言葉はあるが、ベースは『問題解決』と同じ。企業もNPOも行政も、お客さんの声を聴き、ニーズに応え、価値を創造する。さらにそれを保証し続けることが組織の成長につながる」(古谷講師)
古谷講師は「自ら考え、やってみる。『問題解決』は、一人ひとりの能力向上と成長を実感できるツール。職場の活性化にもつながる。働く喜びを味わってもらいながら、NPOも成長して、日本社会がより良くなるように期待している」と締めくくった。
◆第1ステップ「テーマ選定」――組織や人のせいにしない、トヨタ式「問題解決」
◆第2ステップ「現状把握」――「自分がやった方が早い」から抜け出す
◆第3ステップ「目標設定」・第4ステップ「要因解析」――「作業のやり直し」をどう減らすか
◆第5ステップ「対策立案」――問題解決のステップは「A3用紙1枚」で