■ガソリンスタンドを起点にビジネスを拡大
――ブリタはどのように創業し、成長していったのですか。
父のハインツ・ハンカマーが1965年に事業を開始し、1966年にブリタを創業しました。「ブリタ」という名前は、実は私の姉の名前なのです。
もともと父は自動車のタイヤがパンクした時に封入するパンク補修用のスプレーを販売していました。その関係で、ドイツ中のガソリンスタンドに販売網がありました。
ある時、浄水用フィルターを開発している人と知り合いました。それは脱ミネラル作用があり、硬水を軟水に変えることができたのです。
当時、バッテリーには軟水が必要だったので、それをガソリンスタンドに販売したことが現在のブリタの事業の始まりです。そして4年後の1970年に、初めてピッチャー型の浄水器を開発したのです。
1980年代には2つのことを始めました。1つはビジネスのグローバル化です。2つ目は卓上型だけでなく、水道の蛇口に直接つける浄水器の開発です。これはレストランやカフェのコーヒーマシンや自動販売機向けのものです。これらの機器は非常に繊細で、カルシウム分を多く含む硬水では不具合が起きるのです。
■途上国の浄水事業にも挑戦
――ブリタはなぜ、世界の市場に受け入れられたのですか。

水がおいしくなるだけではなく、例えば紅茶を入れる時も、ブリタで浄水した水を使うと、紅茶の色も味も格段に良くなります。
1990年代には世界の販売網を整備しました。欧州では子会社を増やし、欧州以外にも進出していきました。今では西欧、東欧(ロシアやポーランド)、日中韓などアジア、オーストラリア、そして米国とカナダで事業展開しています。
――この浄水技術は先進国だけではなく、飲料水が乏しい開発途上国でも応用できそうですね。
実は、それは難易度が高いのです。水道水の品質と購買力には相関性があります。水道水に一定以上の品質がある地域でないと、浄水器の事業は難しいのです。例えばインドでは水道さえない地域があります。一日のうち数時間しか水道を使えない地域もあります。しかし、今後、途上国でのビジネスは、当社にとって大きなチャレンジになるはずです。
――より低価格で、水質が悪い地域でも使えるフィルターの開発を進めているのですね。
その通りです。国によって水道水の水質はさまざまです。その国の水道水に合ったフィルター技術を提供していくのが当社のビジネスの秘けつです。インドでも近々、事業を始める予定です。
途上国での浄水器事業は簡単ではありません。水道水が全くない国もあります。あったとしても品質が悪い途上国が多いのです。しかし、インドのように、私たちはチャレンジしていきます。私たちの事業を通じて、途上国でもより多くの人が質の高い水が飲めるようにすることが、当社のミッションなのです。
私たちは、2つのことを目指しています。1つ目は、製品を通じて、水の供給を「集中型」ではなく、「分散型」にすることです。集中型とは、一カ所の水をペットボトルに入れて、世界の各地に運ぶことです。
しかし、私たちの技術があれば、分散型の水供給が成り立つのです。水を遠くに運搬しなくても良くなります。
2つ目は、水をパッケージ化しないことです。水をパッケージ化することが、ペットボトルの使い捨てにつながるのです。この二つのことが、環境負荷を減らし、海洋プラスチックごみ問題の改善にもつながるのです。
■ミレニアル世代・Z世代が変えていく
――これから海洋プラスチックごみ問題はどうなると考えますか。
遅かれ早かれ、さらに深刻になります。海洋ごみはさらに増えていくでしょう。それを決めるのは私たち自身なのです。オルタナティブな解決策が必要です。
米サンフランシスコ市は(公用地での)ペットボトルの販売を禁止しました。同市は、その理由をペットボトルのリサイクルは不十分であるとしています。同様の動きは今後、世界中に広がっていくでしょう。しかし、私たちには「代替策」があるのです。よりスマートな解決策です。
――特にミレニアル世代(1981年以降生まれ)やZ世代(1998年以降生まれ)など若い人たちの消費行動は、より環境や社会に配慮したものになりつつあります。
その通りです。若い人たち向けのマーケットは、より有望です。彼ら/彼女らの消費行動は大きく変わってきました。朝食を食べる時も、通学する時も、よりスマートな、環境にも配慮した水の飲み方を求めていると思います。こうしたニーズを満たすためにも、私たちは新たな解決策を提供し続けていきます。