欧州の大都市でも、近年電動キックボードの拡大が続いている。シェアリング事業には大手など企業の参入が進む一方、導入を巡ってはその功罪について議論が続いている。事故の多発をはじめ、製造工程や充電などにおける環境負荷、乗り捨てによる環境汚染などの問題だ。パリ、ロンドン、ベルリン各都市の現場から、その負の側面に光をあてる。(パリ在住編集委員=羽生のり子)
■パリ、「キックボードの墓場」から水質汚染も

2018年から電動キックボードが広まったパリでは、その功罪が早くから問題視されていた。
2019年末の時点ですでに2万台以上がパリを走っており、シェア事業には世界の大手LIMEなど十数社が参入しているが、交通事故が多発し、死者も出ている。
パリ市は、2018年夏から国に規制を求めていたが、国の規制を待たず、2019年7月に独自の規制を施行した。その後10月末に、国が電動キックボードなど一人用電動移動機器の規制を公布した。
国の規制では、最大時速は25キロ、歩道での走行と駐車は禁止で、市街地では自転車専用道路しか走ることができない。許可なくして歩道を走ると罰金135ユーロ(1万6千円)が取られる。スピード違反は150ユーロ(1万8千円)だ。
パリ市の規制は国より厳しく、最大時速20キロ、混雑する場所では8キロ、公園での走行も禁止だ。パリ市は、電動キックボード1万5千台分の駐車場を市内に作りつつある。また数を制限するため、今後パリ市内を走行できる機種のメーカーを入札で3社に絞る考えだ。
電動キックボードは、走行に化石燃料を使わないので炭素ガスを発生しないが、本当にクリーンなのか、2018年8月に話題になった。根拠は同月に米ノース・カロライナ州立大学の研究者たちが発表した論文だ。
1マイルの走行で、自転車やバスの2倍に当たる202gの二酸化炭素が出るという。その50パーセントは製造工程で出るものだ。
たとえばバッテリーに使うリチウムの生産には多大なエネルギーを消費するうえ、産地の中国からヨーロッパやアメリカに輸送するのに化石燃料を使う。温室効果ガス排出量の43パーセントは、充電するため毎日器具を回収に行く時に使う化石燃料から出る。
リチウムのもう一つの問題は、水質汚染だ。パリに限らず、キックボードが海や川に落ちる例が後を絶たない。マルセイユでは港の一角が「電動キックボードの墓場」と化しているという。水に放置すると数年で腐食してリチウムが出てくる。メーカーもこの問題を知っており、水辺の放置を禁じるメーカーが多い。
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