――山崎さんは宇宙に行かれてどのような思いを持ちましたか。
宇宙飛行士になって、いろいろな国の人たちと一緒に「人が宇宙に行く、活動領域を広げる未来」という同じ目標に向かって活動するだけでなく、宇宙の技術を地球の生活に還元させ、生活をより良くさせることへの取り組みにかかわれたことが何よりも嬉しく感じています。
――宇宙技術をどのように応用できるのでしょうか。
2010年に滞在した国際宇宙ステーション(ISS)は、ミニチュアの地球の様な存在でした。地球では森などが、二酸化炭素から酸素を生成し、空気を循環してくれていますが、国際宇宙ステーションでは化学反応を起こして、空気を循環させています。
水も同様で、尿なども回収して、殺菌しながら飲み水に変えていくということをしています。水のリサイクル率はまだ60%強なので、その改良を進めているところです。現在は米国企業の技術を使っていますが、日本企業もより省エネルギーでリサイクル率を80%に高められる技術を開発中です。
宇宙では、1日に利用できる水の量は1人当たり3リットルと決められています。これは災害に備えて備蓄しておく水の量と同じですね。
こうした資源が限られているという状況は、宇宙だけの問題ではなく、地球でも同じです。
飲み水や生活用水として利用できる淡水は地球上の水のうちたった2~3%。それを地球に住む77億人で共有しなくてはならず、そう考えると資源の有用性を意識できると思います。7分の1の人が、安全な生活用水にアクセスできていないと言われ、この水問題はさらに悪化していくだろうとされています。
宇宙の技術と地球の技術をうまく連携させ、両方に役立てる技術の流用・還元できたらと思っています。
――水以外にも、地球で役立つ宇宙技術はあるのでしょうか。
ゼオライトなどを使い、二酸化炭素を回収し、それを化学反応で酸素に変換させるという技術があります。今地球全体での二酸化炭素の排出量が増えている中で、それを人工的に吸収することができれば、地球上の環境改善にも役立つかもしれません。
「宇宙農業」は基礎実験中ですが、例えば、肥料を適切に調整したり、青と赤のLEDを使って、紫色の光を生み出し、それを植物に当てることで、地上より3倍のスピードで植物を成長させることができました。効率よくこうした技術を使うことで、地球の食物の生産にも役立てられるのではないでしょうか。
また、宇宙=無重力空間に行くと、人間の体は変化していきます。この体の変化の一つとして、無重力における筋肉の衰えは、地上の寝たきりの人の筋肉の衰えの約2倍のスピードで起きますが、それを運動することで防いでいます。
そのメカニズムを調べることで、筋肉が衰えていく原因となっている「酵素」を見つけることができるようになってきました。筋肉や骨が衰える過程では、一度細胞が壊れて再結合するというプロセスを踏みますが、そのプロセスが寝たきりだと、分解が増えてしまいます。
この分解と再結合を起こす酵素や、一つ一つの知見を増やしていくことで、まだ基礎研究段階ですが、地上での生活に役立つものへつなげていけると考えています。
人の遺伝子は構造的には分かっていても、その機能一つひとつについては未知の部分がたくさんあります。宇宙実験では、線虫の寿命が伸びたり、きゅうりの突起が、地上だと1個なのが、宇宙だと2個に増えたりするといった現象が起きています。
遺伝子の構造は変わっていませんが、機能の現れ方が変わっていくということがいろいろと分かってきており、遺伝子の知見蓄積につながっています。将来的に、私たちの地上での生活がより良いものになる様に、役立つ知識や技術が見つかると期待しています。
