

米国では2012年のケージフリー卵の割合は5.8%に過ぎなかったが、2016年は9.9%、2019年は18.4%まで増加した。ケージフリー宣言が先行していた欧州では、すでに10カ国で生産する卵の半分以上がケージフリーのものに切り替わっている。
企業が果たしてきた役割は大きい。需要が見込まれれば生産者は設備を入れ替えることができ、供給は少し遅れてついてくる。消費者も学び、より良い選択肢を求めるようになるだろう。
実際、日本の企業にも畜産動物の飼育環境の改善に取り組んでほしいと願う消費者が約80%を占めるのだ。
動物福祉に配慮していないと投資しないとする機関投資家も増えてきている。運用資産残高総額2200兆円の投資家が参加するイニシアチブFAIRRは、動物福祉を含めて集約的畜産のリスクに警鐘を鳴らしている。
このFAIRRの評価で日本の大手食肉企業がハイリスク企業としてマークされているし、アニマルウェルフェアを評価するBBFAWという団体の評価でも評価対象となった日本を代表するグローバル企業がすべて最下位にランク付けされている。
オリンピックの選手村や会場で提供される卵は、ロンドン大会でもリオ大会でもケージフリーでなくてはならなかった。しかし東京大会では世界中が廃止していっているバタリーケージの卵が使われる。
残念ながらオリンピックという素晴らしいチャンスを日本は逃しつつあり、日本の動物福祉の遅れを世界に知らしめつつある。負のレガシーを残して日本企業がダメージを受けないためにできることは、企業が努力し、その取り組みを公表していくことだ。
2030年、今のまま鶏たちを苦しめるケージ飼育の卵を提供し続けてよいのか、どのような畜産物を調達しているべきなのかという目標を定め、それを公表することが、企業の今の役割だと私達は考えている。
食品を売買していなくても、社員食堂や社内パーティーで使われる食材でそれを実践することができる。そういった取り組みは、間違いなく生産者を後押しし、持続可能な社会づくりに貢献することになるだろう。

岡田 千尋(おかだ・ちひろ)
2001年からアニマルライツセンターで調査、キャンペーン、戦略立案などを担い、2003年からアニマルライツセンターの代表理事を務める。衣類や食品として扱われる動物、動物園や水族館など娯楽に使われる動物を救うための活動を行う。
雑誌オルタナ59号(2019年12月17日発売)から転載