
(c) Richard Webb ・ CC BY-SA 2.0
事業主であるウェスト・カンブリア・マイニング(WCM)社は、ここで実際に生産するのは火力発電用石炭ではなく製鉄用のコークスだと説明する。懸念される温暖化ガス排出に関してはCCS技術を導入するほか、毎年25万本の植林を行い操業に必要な電力は太陽光発電で賄う。
コークスは鋼鉄生産に欠かせない燃料で、現在水素やバイオマスなど代替え燃料の開発が進んでいるが、どれもコストが高く実用にはいたっていない。鋼鉄はグリーン産業を支える風力発電のタービンや電気自動車の車体、線路などに不可欠なことから当分は大量需要が続く。
現在英国は国内で使うコークスのほとんどを北米、中国、ロシアからの輸入に頼っており輸送による環境負荷が発生している。このため国内供給分が増えることはグリーン産業革命にとってもプラスだというのが事業主側の言い分だ。

環境NGOが指摘、「政府は真面目に考えていない」
反対者側は、生産されるコークスの85%が実は国外に輸出される見込みで国内需要が焦点ではないことを指摘した。地元住人で反対運動を続けるアリ・ローズさんは「輸入コークスの量が減れば海外の採炭量が下がり、カーボンオフセットになるというWMCの主張は理不尽だ」とし、鋼鉄産業自体の低炭素化の必要性を訴える。
環境団体フレンズ・オブ・ジ・アースは「政府は気候変動を真面目に考えていない。この事業は500人の雇用を創出するそうだが、環境を犠牲にしている」と再考を強く求めた。
反対の影響も受けてか、地元の自治体は2月9日「政府諮問委員会のひとつ気候変動コミッティー (CCC)による新たな報告と第六次カーボン予算の発表内容を受け、許可をいったん取り下げ再検討する」という声明を出し待ったをかけた。
CCCは2025年までにコークスの生産もやめるべきだと提言しているが、WCM側はこの事業計画はすでに三回に渡ってコミッティーから承認されているとし、再度のゴーサインを求める方針だ。
コロナ禍による経済打撃からの復興と低炭素社会化を同軸で実施しようという「グリーン産業革命」は、発表から3ヶ月で早くも矛盾する問題に見舞われている。秋にスコットランドで開催される第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)のホストとして、革命推進の旗手役を果たせるのかどうかが注目されている。