黒人などマイノリティー(少数派)の投票権を抑圧するものとして、批判の声が高まっている「投票制限法」だが、すでに可決した米ジョージア州以外でも、法制化する動きが広がっている。2020年に行われた大統領選挙後、トランプ元米大統領の支持議員を中心に、すでに全米47州で300を超える数の法案が提出された。(寺町幸枝)

テキサス州やアリゾナ州など、保守共和党の「レッドステイト」と呼ばれる州が中心だが、カリフォルニア州のような民主党支持者が多い「ブルーステイト」でさえ、法案提出の動きがあるようだ。
例えばテキサス州では、4月1日に議会に提出された法案の中で、「Texas Senate Bill 7(通称SB7)」が大きな注目を集めている。選挙にまつわる法案として、早朝の投票時間の削減や、ドライブスルー投票の禁止、郵便による期日前投票の複雑化などが、マイノリティの投票を制限すると問題視されている。
こうした動きに対する企業の姿勢にも注目が集まっている。「投票制限法」が成立したジョージア州に拠点を置くデルタ航空とコカコーラは、明確に反対の意思を表明した。また、テキサス州に拠点を置くデルやアメリカン航空は、同州の投票制限関連法案に対して、強い懸念を表明している。
ドジャース監督「開催地を変更しなければ監督降りる」
ニューヨークタイムズによれば、スポーツ界やスポンサー企業が、選挙権を侵害するような動きが見られた場合、その会場となる都市や州が「国を代表するようなメジャーイベントを開催する会場として適しているかどうか」、改めて見直す動きがあると報じている。
「Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)」運動では、スポーツ界が民意に大きな影響を与えたと言われている。米国が最も大切にしている合衆国憲法修正第一条の「言論の自由」に関わる投票制限法について、すでに黒人アスリートが活躍するスポーツ界から反対する声が上がっている。
実際、LAタイムズによれば、米プロ野球チーム・ロサンゼルス・ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、「MLBがジョージア州アトランタから会場を移さなければ、ナショナルチームの監督を降りる」とまで宣言した。MLBは4月2日、7月のオールスター戦とMLBドラフトの開催地をアトランタから変更することを発表した。
今後各州の法案が整備されていく過程で、投票行動にかかわるこの問題により、米国内の分断がより深刻化する可能性は否めない。政治とのかかわりに一線を置いてきたスポーツやビジネス界から集まるメッセージが、民意をまとめる方向に転じるか、あるは分断に加担するのか、今後改めて注目したい。