国内初のクリケット(コオロギ)粉末プロテインを開発・販売したフードテックODD FUTUR(東京・千代田)はこのほど、「クリケットプロテインバー」(チョコ・抹茶味)を発売した。タンパク質含有率は、1個40gの製品につき12gと高く、環境負荷が低い健康食として注目を集めている。(ライター・遠藤一)

ODD FUTUREは2020年10月に国内初のクリケット粉末プロテイン(チョコレート味)を発売。約1カ月で初回ロットを完売と好評だった。
それまでにも他社からは、主に調理用に使われるクリケットパウダーや、粉末ではないプロテインバーなどが発売されていたが、粉末プロテインとしては日本初となる。
ODD FUTUREの長田竜介代表は大学卒業後、アパレル商社に入社するも、現場での大量生産と大量廃棄を目の当たりにして漠然とする。
長田代表は「企業活動の前提も、その事業が結果として世の中に与える影響もサステナブル(持続的)でないと意味がないし、いつかそんな事業がやりたい」(長田代表のnoteより)と考えるようになった。
「タンパク質危機」の救世主になるか
そんな時、昨今注目されている「昆虫食」という言葉に出合った。幼い頃に祖父が畑でおやつ代わりにコオロギやミミズを食べていたり、自身も蜂の子を美味しく食べたりしていた原風景を思い出したという。
長田代表は「『昆虫食』をニッチな食べ物ではなく『常食できる、誰もが美味しく摂れる食事』にアップデートしよう。そしてそれは既存の畜産業に依存しない代替タンパク質となり、持続可能な食の未来を創ることになる」と、コオロギフードテックブランド「INNOCECT(イノセクト)」を立ち上げた。
世界の人口増加に伴う食料危機対策として、国連食糧農業機関(FAO)は2013年、栄養価が高く環境への負荷も少ない昆虫食の活用を推奨する報告書を発表した。増える食肉の需要に対し、現在の牛豚鶏の家畜で賄うことはできなくなる「タンパク質危機」に、昆虫はうってつけというわけだ。
昆虫はタンパク質割合が高く、コオロギも100gあたりのタンパク質量が60g以上だ。牛が100gあたり約20g、ヘルシーなタンパク質源の代表である鶏ささみで約30gと、動物性タンパク質の中でもかなりの高タンパク食と言える。
クリケットタンパクの他にえんどう豆タンパク(ビープロテイン)なども含む。畜産に使用されることが多い抗生剤やホルモンの不安もない。
牛肉に比べ温室効果ガス排出量は30分の1
さらに、環境負荷が少ない食料としても優れている。タンパク質1kgを生産するため、牛のゲップや糞から排出される温室効果ガスは約2.8kg。しかしコオロギは0.1kgと30分の1以下。生育に必要な水の量は約6000分の1だ。
日本でも数少ないながら、近年はコオロギの煮干しや佃煮、パウダーなどが生産され始めた。2020年、無印良品が販売開始したコオロギせんべいが人気となったのも記憶に新しい。
長田代表は、小さな頃から身体が弱かったという。そこで思いついたのが、健康食としての昆虫食を提供できないかということ。気軽に摂りやすく、タンパク質量の多さも生かし、さらに見た目のハードルも無くせるプロテインがぴったりではないかと考えた。
同社の「INNOCECT」はクリケットをパウダー化するにあたり、タンパク質含有比率を一般よりも高めよりプロテインに適したものに加工した。
筋肉を作る必須アミノ酸であるBCAA含有量でも、INNOCECTのクリケットは100gあたり39gと高い。一般的なホエイプロテインは24g、ソイプロテインが18gであり、豊富にBCAAを摂ることができる。
今回はより手軽に食べられるプロテインバーでの発売だ。味にもこだわっており、クリケットの持つ香ばしさと相性の良い、チョコレート味と抹茶味の2種類から選べる。
クリケット原料は自社でも養殖しているが、必要な量が多いため輸入している。ホルモン剤や抗生剤を一切使用することなく、ベジタブル飼料を与え、食品安全認証(HACCP、GAP、GMP)工場で生産された、安心・安全な原料とのことだ。
ただしコオロギ食は、エビやカニなど、甲殻類アレルギーの人は注意が必要となっている。
コロナ禍で健康志向も高まり、家トレをする人も増えている。タンパク質補給や運動時のプロテインに、ヘルシーで環境にも配慮された、効率も良い「クリケットプロテイン」という選択肢が新たに加わり始めている。