温室効果ガス(GHG)削減の国際枠組みであるSBT(サイエンス・ベースト・ターゲット)はこのほど、日産自動車に対して「2℃を十分に下回る」(WB2.0℃)の目標を承認し、日産側に伝えた。SBTに目標を正式に承認された国内完成車メーカーは日産が初めて。同社は26日にも発表する。(オルタナ編集部・松田慶子)
SBTは「サイエンス・ベースト・ターゲット(科学に基づいた目標)」の略称で、SBTを運営するSBTイニシアティブ(SBTi)は、カーボンディスクロージャー・プロジェクト(CDP)、国連グローパルコンパクト、世界資源研究所(WRI)、世界自然保護基金(WWF)が共同で運営するNGO(非政府組織)だ。
SBTiは2015年、気候変動枠組み条約「パリ協定」合意前に発足し、世界の企業に対して温暖化削減目標の提出を促している。企業側も、「ESG投資」の文脈から、温室効果ガス削減の姿勢を投資家や社会に示すためにもSBT承認取得に積極的だ。
世界の主要産業1713社が承認作業に参加
目標には「1.5℃」、「2℃を十分に下回る」(WB2.0℃)、「2℃」の3種類あり、産業革命以前と比べて世界の気温上昇を何℃以内に抑えるかという数値を示す。1.5℃目標が最も厳しい。
SBTには2021年8月現在、航空・防衛、運輸、化学、食品、自動車関連など世界の主要産業から1713社が承認プロセスに入り(コミットメント)、うち858社が目標を承認され、このうち715社が1.5℃目標を承認された。
日本企業で「承認プロセス中」か、「正式に承認された」のは153社ある。このうち「1.5℃」目標の承認を受けたのは、イオン、SCSK、塩野義製薬、ソフトバンク、東急不動産、NEC、YKK、三井不動産、NTTドコモなど。
2026年7月末までに1.5℃目標を再提出へ
自動車業界では、部品メーカーの協発工業(愛知県岡崎市)と、榊原工業(愛知県西尾市)の2社が目標を承認済み(いずれも(1.5℃目標)。国内完成車メーカーで目標を承認されたのは日産が初めてだった。
SBTは今年7月、「2℃目標」や「2℃を十分に下回る」目標は認めない方針を明らかにした。2022年7月以降の申請分については、1.5℃目標しか受け付けない。日産も2026年7月末までに1.5℃目標を再提出する必要がある。
日産はSBTiに対して脱炭素に取り組むとコミットしていたが、2年以内に目標を提出することができず、一時は目標承認プロセスリストから外された。その後、日産がSBTiに「WB2.0℃」目標を提出し、SBTiは7月30日付けでこれを承認した。近くSBTiのホームページにも掲載する。
「2℃目標」と「1.5℃目標」はこんなに違う
「2℃目標」と「1.5℃目標」はこんなに違う
SBTiが定める「2℃目標」「2℃を大きく下回る(WB2℃)目標」「1.5℃目標」は一見、大きな差異がないように見える。
しかしSBTのマニュアルによると、この3つの目標では毎年の削減目標(%)が大きく異なる。「2℃目標」は毎年1.23~2.5%減、「2℃を大きく下回る(WB2℃)目標」は2.5~4.2%減、「1.5℃目標」は4.2%以上だ。つまり、2℃目標と1.5℃目標では、毎年の削減率が68~241%も違うのだ。(図参照)

日産のほか、トヨタ自動車や本田技研工業も、目標設定の取り組みをコミット(約束)したものの、SBTの基準に整合する目標を提出できなかったため、2020年までに取り組み企業のリストから除外された。
SBTが削減対象とするGHG排出量は、スコープ 1~3という3段階の排出量を合算する仕組みだ。自動車メーカーにとって販売したクルマが排出するGHG排出量を含む「スコープ3」が全体の8~9割を占めるなかで、国産メーカーは途上国でのシェアが比較的高いため、削減が難しいとされていた。
■SBTからGHG削減目標を承認された/コミットした主な完成車メーカーと自動車部品メーカー
▶「1.5℃」目標を承認済み
ゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、BMW グループ、ボルボ・グループ、メルセデス・ベンツ、マヒンドラ、ボッシュ、協発工業、榊原工業
▶「2℃を十分に下回る」目標を承認済み
フォルクスワーゲンAG、グループ・ルノー、住友電工
▶「2℃」目標を承認済み
PSA (プジョー、シトロエン)
▶コミットだけ(コミット後の2年間に目標を提出しないと、リストから削除)
ジャガー・ランドローバー、日立Astemo、NGK スパークプラグ
▶コミット後の2年間に新たな目標を提出できずにリストから削除された企業
トヨタ自動車、本田技研工業