【連載】「森を守れ」が森を殺す
今春の出来事だが、奈良県の吉野の山奥に、一台のトラックを囲んで多くの人が集まった。なかには本郷浩二林野庁長官(当時)の顔もある。そして山主など林業家、トラックメーカーの面々。(田中 淳夫=森林ジャーナリスト)

新型林業用トラックのお披露目会だった。幅が狭く急斜面急カーブの連続、そして土道という作業道を、木材を満載したトラックが試験走行し、見事登り切ってみんなの歓声を浴びた。
このトラックのどこが珍しいのか、と思われるかもしれない。実は近年のトラックは、4駆であっても排ガス規制や燃費向上のため低床高速ギア仕様となり、悪路走行に向かなくなった。新型トラックでは悪路の最たる作業道は登れないのだ。そのため林業家は中古トラックを探し回る有様だったのである。
このままでは木材搬送に支障をきたし、林業が行えなくなる……5年前そんな危機感を持った声が上がった。それがSNSを中心に全国に広がり、とうとうメーカーも動いた。かくして林業用の悪路走破性の高い高床低速ギアタイプの新型トラックが完成したのだった。
ここで疑問を持つ人もいるかもしれない。今や林業現場では、高性能林業機械の導入が進められている。伐採は乗用林業機械(ハーベスタなど)で行い、丸太を運ぶにも専用の運搬車(フォワーダ)があるではないか、と。
大型専用機から「汎用性」トラックへ