「サステナビリティ経営」は、これまでの経営と何が違うのだろうか。あえてスポーツに例えると、「サステナビリティ経営は、サッカーに似ている」と言えるかもしれない。そこには3つの理由がある。(オルタナ編集長・森 摂)

2003年にリコーやソニーが日本企業として初めてCSR部を創設してから20年近い年月が過ぎた。今でもCSR(企業の社会的責任)の重要性に変わりはないものの、その後に「サステナビリティ(経営)」「ESG(経営)」「SDGs(持続可能な開発目標)」など多くの概念や枠組みが出てきて、混乱する向きもあるだろう。
サステナビリティ経営とは、文字通り、サステナビリティ(持続可能性)に配慮した経営スタイルのことだ。売上高、利益やROI(投資利益率)などの「財務領域」だけでなく、環境、人権、ダイバーシティ&インクルージョンなどの「非財務領域」も重視する。
その点において、サステナビリティ経営は、ESG経営やCSR経営とほぼ同義だ。ESG(環境・社会・ガバナンス)という概念は2006年、コフィー・アナン国際連合事務総長(当時)が金融業界に対して提唱したイニシアティブ「国連責任投資原則」(UNPRI)に初めて盛り込んだ。
そして、日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年9月28日に「国連責任投資原則」に署名したことで、日本の上場企業経営者にもESGの概念が一気に浸透した。
ちなみにコフィー・アナン氏は2000年にSDGsの前身である「MDGs」(ミレニアル開発目標を提唱し、その実践のために「国連グローバル・コンパクト」を立ち上げた。これに「ESG」を加えた「アナン氏の3つの贈り物」がいま、世界の経営者たちをサステナビリティに導いている。
2019年9月には米国ビジネス・ラウンド・テーブル(日本の経団連に相当)において、米国主要企業が「これまでのシェアホルダー(株主)資本主義から、ステークホルダー資本主義に転換する」と宣言した。これに続き、2020年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)が「ステークホルダー資本主義」を主題にしたことも、軌を一にする。
■サッカーに似ている第1の理由は「攻守同時」
さて、サステナビリティ経営がサッカーに似ている第1の点は「攻守同時」であることだ。野球は表と裏(攻撃と守備)に分かれ、守っている間に自チームが得点をあげることは無い。
ところがサッカーは、攻めていると思えばカウンター攻撃をくらったり、ディフェンダーが攻撃に参加したり、あるいはフォワードも守備を担ったりする。
これまでの経営は、攻撃(お金を稼ぐこと)と守備(社会対応やリスク対応)は別物とされ、担当部署も分かれていた。ところが、サステナビリティ経営は社会課題への対応や、社会ニーズを起点にしたビジネス創出(SDGsアウトサイドイン)など、「攻守一体の戦略」が求められる。
例えば、食用油に多く用いられるパーム油。インドネシアやマレーシアで多く生産される安価で良質なヤシ油だが、これにより熱帯雨林の違法伐採や、そこに棲むオランウータンなどの絶滅危惧種の減少、さらには児童労働などの問題がこの30年ほど問題になってきた。
その批判の主な対象になったのが、ネスレやユニリーバなどのグローバル企業だ。大企業ほど、NGOのターゲットになりやすいからだ。
だが、これらの企業は、パーム油問題を解決するためにNGOらと対話を重ね、2004年4月には「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」を設立し、問題解決のための努力を続けている。
ネスレのピーター・ブラベックCEO(当時)が2005年に「CSV」(共有価値の創造)の概念を社内で発表したのも、「パーム油問題」などNGOによる批判が背景にあったと見るのが自然だろう。
ちなみにCSVは企業と社会が社会課題の解決で協働することで、「共有の価値」を創造していく趣旨だ。2012年、マイケル・ポーター氏(ハーバード・ビジネス・スクール教授)が論文で紹介したことで、世界や日本にも広がった。
一方、日本企業はNGO/NPOに批判された時に、対話の窓口を開くのではなく、逆に無視してしまいがちだ。すなわち、「貝」になりやすい。これは、日本企業の経営者が「企業と社会が対話する」ための教育を受けていなかったことが背景だろう。
■第2の理由は、「スピードが命」