海の生態系を破壊する「磯焼け」問題に挑むスタートアップ企業ウニノミクス(東京・江東)が注目されている。同社では2019年3月、大分県に世界初となる陸上でウニの養殖を行う子会社を設立した。「磯焼け」問題を起こしている空ウニでも同社独自の飼育技術によれば約2カ月で食用のウニに生まれ変わる。事業の社会性が評価され、このたび国連から「社会的企業」として公式推薦も受けた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

2017年1月にできたウニノミクスは磯焼け問題の解決に挑むスタートアップ企業だ。同社は大分県で陸上でのウニの養殖を展開するが、商業規模は世界初だ。磯焼け問題を引き起こしている海底の空ウニでも、同社が独自で開発した飼育技術によって約2カ月で食用のウニに生まれ変わる。
餌には持続可能な方法で収穫した食用昆布の端材を使った。ウニ本来の味を引き立て、ホルモン剤、抗生物質、保存料などを一切使用しない専用飼料だ。これらの飼育技術を確立するため、ノルウェー食品・漁業・水産養殖研究所(NOFIMA)の技術を基に日本やノルウェー、米国などで実証実験を繰り返してきた。
2019年3月に大分県につくった養殖施設では年間に15~18トンの生産量を誇り、大分県や東京などの飲食店に卸している。

海の生態系を破壊する磯焼け問題は国際的に問題視されている。磯焼けとは、増えすぎたウニによって藻場が食い荒らされた状態を指す。海の生物にとって格好の生息場である藻場がなくなることは、海の生態系を崩すだけでなく、地球温暖化の一因にもなる。
海藻は二酸化炭素を吸収する有効な資源「ブルー・カーボン」として注目を集める。 海底にあることで、山火事や開発による森林伐採などの影響を受けない。安定的に二酸化炭素を吸収できることがメリットだ。
磯焼けの問題を引き起こしているウニの多くは身がつまっていない空ウニだ。市場価値のないウニだが、同社ではこの空ウニに目を付けた。
国際連合は1月6日、「国連海洋科学の10年」の公式推薦団体として、ウニノミクスを選んだ。「国連海洋科学の10年」は海洋生態系を守る団体からなる枠組みで、研究機関やNGOなど約150の団体が参画している。営利組織として国連の公式推薦を受けたのは、ウニノミクスで3社目だ。
磯焼け対策の一環として、空ウニの捕獲は、国や各都道府県が税金を使って取り組んでいる。水産庁でもまだ磯焼けに関する詳細なデータは持っておらず、これから研究を強化していく社会課題の一つだ。
ウニノミクスの日本事業の責任者を務める山本雄万氏によれば、同社は2022年中に2~3か所、国内にウニの養殖施設を新たにつくる計画を持つ。各地域の漁業者と連携して、事業を展開し、雇用も生み出す考えだ。