
ホームのベンチに腰掛けるとウグイスが後ろの枝に止まった。つぶらな瞳で見つめてくる。
俺だよ。何をくよくよ考えているんだ。お前は昔から気が小さくてどうでもいいことで悩んでいたなあ。
「父ちゃん、家屋敷を売ることになって申し訳ない」
確かにあの家は俺の自慢だ。何回も山を見に行って気に入った一本一本を牛にひかせて運んできたものだ。
「晩酌しながら、よく話してくれたよね」
でもな、どんなものでもいずれは朽ちて土に帰るんだ。立派な家だとわかってくれただけでいい。
「じゃあ、僕が頭をやられたのは父ちゃんの仕業じゃなかったの?」
実は、最初はそのつもりだったんだ。でも、お前が勝手に転んじゃっただろう。ケガをしたみたいだから心配で横から見守っていたんだ。
「やっぱり、あれ父ちゃんだったのか」
そうさ、たいしたことはないようだったから黙っていた。すぐ119番はしたけどな。
「ありがとう」
じゃあな。
ウグイスはオリーブ色の尾をピッと立て、あっという間に飛び去った。
いろいろ考えた挙句、ようやく見つけたのが古材市場だった。
「大切に使ってくれる客に売ってほしいね。そうでないとオヤジに怒られちゃうから」私はそう注文をつけた。
これはいい儲けになるぞとニッカポッカはほくそ笑んでいるに違いないが、残念なことに心の声はもう聞き取れない。
(完)