4月24日のフランス大統領選挙決選投票を前に、極右の「国民連合(RN)」マリーヌ・ルペン党首が4月12日、急進左派ジャン=リュック・メランション氏の支持者に自らへの投票を呼び掛けた。メランション氏は1回目投票で3位だった。ルペン氏は急進左派や「黄色いベスト」が主張する「市民主導の国民投票」の実施を約束しており、左派の票が集れば、当選する可能性が出てきた。しかし識者は、国民投票の危うさを指摘する。(在パリ編集委員=羽生のり子)

ルペン氏は「当選すれば、市民主導の国民投票(RIC)を実施する」と前置きした上で「だから『服従しないフランス』の皆さん、決選投票では私に投票して」と呼び掛けた。1回目投票で3位になったメランション氏は急進左派政党「服従しないフランス」の党首。ルペン氏と1.2パーセントの得票差で決選投票に進出できなかった。開票結果が判明した直後、「たとえ1票でも極右には入れないように」と強く呼び掛けた。
しかし、4月12〜13日にエラブ研究所が行った世論調査では、同氏に投票した有権者の27%が決戦でルペン氏に投票すると答えている。

ルペン氏への投票を支持した他の極右候補と右派候補の得票率をルペン氏の得票率に加えると有権者の32%になる。さらに、1回目はメランション氏に入れたが決戦でルペン氏に入れる予定の人を加えると38%を超える。ルペン氏が大統領になる可能性は大いにある。
R I Cとは、市民が5万筆の賛同署名を集めれば、法改正を要求することができ、国民投票にかけて可否を決定するというものだ。
それについて憲法学者のアンヌ=マリー・コエンデ氏が14日、公共ラジオ放送「フランス・キュルキュルチュール」で、「R I Cは民主主義的なものだが、独裁者にとってはこの上ない武器になる」と警告した。
プーチン大統領とトルコのエルドアン大統領は、改憲を国民投票にかけて可決に導き、自らの権力の強大化を図った。ルペン氏が当選すれば、同様の事態が起こりかねない。
「投票前に違う意見も聞いて熟考する時間を市民に与えないと、国民投票は民主主義を台無しにするものになる」とコエンデ氏は言う。