パリ協定の1.5度目標を達成するため、「カーボンインセット」という仕組みが世界で広がり始めた。カーボンオフセットが植林などによるクレジットを「外から購入して、自社のCO2排出を相殺」するのに対して、「インセット」は自社バリューチェーンでのCO2吸収を組み合わせ、実質ゼロとする仕組みだ。(NZ=クローディア―・真理、オルタナ副編集長・山口 勉)

米ニューヨークとロサンゼルスで、生産段階でのCO2排出をゼロに抑えた牛肉の販売が始まった。ニュージーランドにある農場の炭素固定能力を計算・把握し、農場で排出するCO2を農場内で相殺する。2030年までに排出量を2020年比で42%削減し、SBT(サイエンス・ベースト・ターゲット)が設定目標を認定した。
ニュージーランド最大の食肉生産企業であるシルバー・ファーン・ファームズはこのほど、米国の二都市のスーパーマーケットで「ネット・カーボン・ゼロ・バイ・ネイチャー」ブランドのアンガス・ビーフの販売を開始した。
ニュージーランドの環境省によると、同国内の温室効果ガスのうちの半分近くは牧畜業・農業からの排出だ。主な排出源は家畜の消化器官から発生するメタンで、ほぼ4分の3を占める。また牛からの排出量においては、実に96%もが農場由来であることが分かった。
「ネット・カーボン・ゼロ・バイ・ネイチャー」ブランドの製品は、「カーボンインセット」と呼ぶ方法で生産する。つまり、製品のCO2排出量を相殺するにあたって必要な炭素クレジットは、牛を飼育する農場の中で作り出す。
シルバー社のサイモン・リマ―CEOは、「CO2排出量の管理は私たち自身の責任であり、ほかの誰のものでもない。排出したCO2は外部に転嫁するのではなく、農場自らが相殺すべきだ」と意気込みを見せる。
■「カーボンインセット」はどのような経緯で生まれたか