欧州保険最大手のアリアンツ(本社:ドイツ・ミュンヘン)は4月29日、新規の石油・ガスプロジェクトに対する保険引受と投融資の停止を発表した。2023年7月1日以降は保険契約更新の停止も表明しており、石炭に続き石油・天然ガスも含めた「脱炭素・脱化石」を後押しする。一方で環境NGOは、日本の3大損保の取り組みの遅れを指摘する。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■環境NGOはアリアンツを評価、日本の3大損保は「何も制限を設けていない」
アリアンツは下記のプロジェクトについて2023年1月以降、新規の損害保険契約・補償、資金提供を行わないとした。
・新規油田・新規ガス田の探鉱・開発
・石油に関連する中流インフラ
・石油火力発電所の新規建設
電力事業者やインフラ事業者は、化石燃料プロジェクトを行う際には必ず保険に加入する。保険会社が契約や資金提供を断つことは、これらの新規建設がほぼ不可能になることを意味する。
日米欧の環境NGO27団体からなる運動体「Insure Our Futureキャンペーン」のリンジー・キーナン(Lindsay Keenan)ヨーロッパ地区コーディネーターは、今回の動きをこう評価する。
「アリアンツは世界最大の保険会社であり、石油・ガスに関する保険最大の引受者だったが、それらの新規開発はパリ協定1.5℃目標と整合しないという明確なメッセージを発した。アリアンツは他の保険会社の水準を引き上げ、他社もこれに追従する必要がある」
ドイツの環境NGOウルゲバルト(Urgewald)のレジーン・リヒター(Regine Richter)キャンペーナーは、「液化天然ガスターミナルのような中流ガス設備や、ガス発電所、不ラッキング(水圧破砕)ガス採掘を対象から除外していない」と、不十分さを指摘する。
しかしその一方で「保険会社が石油・ガスの新規開発がもたらす気候変動の脅威にようやく目を向けた」と、今後に期待を寄せた。
Insure Our Futureキャンペーンに参加するNGOの一つであるJACSES(「環境・持続社会」研究センター)の田辺有輝プログラム・ディレクターは、日本の取り組みの遅れを指摘する。
「日本の3大損害保険会社である東京海上、MS&AD、SOMPOは、石油・ガス事業について何も制限を設けていない。特に東京海上は石油・ガスセクターの保険引受における世界10大損保に入っている。3社もアリアンツに追従し、制限を早急に設ける必要がある」
3大損保は、すでに新規の石炭火力への保険引受については原則停止を表明している。石油・天然ガスについても気候危機に加えて、ウクライナ戦争による地政学的なリスクが明白になった。石炭に限らずすべての化石燃料からの撤退が、保険業界のスタンダードな方針となるのは必至だ。