外務省は6月22日、バングラデシュとインドネシアで進めていた2つの石炭火力発電プロジェクトの支援中止を発表した。いずれも環境NGOや市民から中止を求める声が上がっていたが、日本政府は「契約済み」を理由に支援を続けてきた。今回の決定はこの方針を変更するかたちとなったが、これが石炭火力の全面的な支援中止につながっていくのか、まだ先行きは不透明だ。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■NGO「アンモニアや水素混焼の支援も中止を」
日本政府は昨年6月のG7サミット(先進7ヵ国首脳会議)において、「『新規』の石炭火力プロジェクトの支援を2021年内に終了する」ことに合意した。一方で、すでに始まっているプロジェクトについては支援を続けるとした。
今回支援中止を発表した「マタバリ・フェーズ2」(バングラデシュ)と「インドラマユ」(インドネシア)も「契約済み」を理由に支援を続けてきたが、改めて中止することになった。
これら2プロジェクトに対しては、環境NGOや市民から、環境破壊や人権侵害、建設しなくても電力需要を賄えることなどを理由に中止を求める声が上がっていた。今回の発表を受け、環境NGO5団体は共同で声明を発表。石炭火力にとどまらず、新規のガス火力やアンモニア・水素混焼への支援も行わないよう求めた。
共同声明「住民・市民運動の勝利!日本政府がマタバリ2及びインドラマユ石炭火力の支援中止を発表~アンモニア混焼やガス火力への転換も回避すべき~」
■外務省「今回の中止は、あくまでも個別に決めた」
オルタナ編集部の取材に対して、外務省はこうコメントした(匿名を条件)。
ーー中止の理由に「国際的な議論の潮流を踏まえて」を挙げている。これは昨年11月のCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)をはじめとする脱石炭の潮流が大きかったのか。
その通りで、まさにCOP26などの世界的な動向を意味している。
ーーNGOの声も、中止を決める後押しになったのか。
決定的な要因になったとはいえないが、そうした市民社会の声もひとつの考慮要素になったと思う。
ーーバングラデシュのマタバリについては「フェーズ2」のみ中止を発表した。「フェーズ1」(※)の支援は続けるのか。
フェーズ1の支援は続行する。バングラデシュ政府とも協議をして、そのように決まった。
※マタバリは「フェーズ1(第1期)」と「フェーズ2(第2期)」の2段階からなる。いずれもまだ本格的な着工に至っていない。
ーー今回の中止決定は、日本政府の石炭火力の支援方針に何らかの影響を及ぼすか。
今回中止した2件は、あくまでも個別に決めたもの。これをもって全ての「契約済み」石炭火力支援(※)から撤退するわけではない。しかし他の進行中のプロジェクトについても相手国政府から要請があった場合などは、取りやめるケースも出てくるかもしれない。
そもそもプロジェクトは日本政府、相手国政府、事業を実施する企業の3者の合意なしには進められない。いずれかの主体から中止したいという話が出れば、協議をして決めることになるだろう。しかしまだ具体的に話が出ているわけでないので、現時点でこれ以上のことは言えない。
※日本政府は今回中止を発表した2案件以外にも、JICA (国際協力機構)やJBIC(国際協力銀行) を通してインドネシアやベトナムで複数の石炭火力を支援している