■スコープ3の衝撃(2)
環境省が打ち出す見込みの、企業の温室効果ガス(GHG)排出量における「スコープ3」(間接排出)の算定手法は、産業界にとって大きな衝撃になりそうだ。これまでグレーゾーンだった領域が今後、厳しく問われることになる。企業の対応も待ったなしだ。(オルタナ編集長・森 摂)

■ガバナンスコード順守、TCFD賛同もスコープ3は灰色
もともとスコープ3の算出方法は曖昧だった。「コーポレートガバナンス・コード(CGC)順守を表明し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同をしていても、スコープ3は算出できていない」という笑えない話もある。
CGCは2021年6月、すべての上場企業に求められる気候変動リスクの情報開示として、下記の要件を企業に求めた。
「特にプライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである」
このため多くのプライム市場上場企業は、CGCの遵守と合わせて、TCFDへの賛同を表明した。だが、「気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響」と言いながら、日本企業の多くはスコープ3ができていない実態がある。
ある専門家は、「スコープ3を科学的に算出できている上場企業は1割程度ではないか」と明かした。
国際的には、2011年10月に公表された「GHGプロトコル」が温室効果ガス排出量の算定と報告の世界共通基準になった。日本の環境省もこれに基づいた算定方法のガイドラインを作り上げてきた。
これは「GHGプロトコルイニシアチブ」という独立機関が策定したもので、米シンクタンク「世界資源研究所(WRI)」や、持続可能な開発を目指す世界経済人会議(WBCSD)などが主体になった。
それ以前から、アディダスやプーマなど欧州のトップランナー企業はいわゆる「環境会計」を打ち出し、PL(損益計算書)やBS(バランスシート)と同様の手法でGHGの管理を始めた。
環境省のGHG算定方法はあくまでガイドラインだ。法的な拘束力はないし、今後も法的拘束力を持つことはないだろう。このため、業界や企業によってはスコープ3の算定基準に「科学的な根拠」を欠くものも散見された。
■日本取引所のTCFDに対する姿勢も甘い