記事のポイント
①ウクライナ侵攻が始まって6カ月が経過
②軍事費に充てられることから、大使館への寄付に抵抗感を示す日本人は多い
③在日ポーランド人シェフのドミニカ・ジョルダノさんは、食のチャリティイベントを実施
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって6カ月が経過した。報道数の減少とは裏腹に、継続的な支援活動が日本でも続けられている。中でも在日外国人たちは、支援の手を緩めない。食文化やアートを通じ義援金を呼びかけ、武器弾薬を購入するためではなく、現地の人々の生活を直接支していることが特徴的だ。日本人として、今何ができるのか。(寺町幸枝)
■軍事支援に抵抗を持つ日本人

「母国ポーランドに住む家族や友人たちは、隣国ウクライナの人たちを全力で支援していて、みんなとても積極的。私は日本にいて何もできないことが、とてももどかしかった」
こう打ち明けるのは、在日ポーランド人シェフで、ポーランドの国際ラジオ番組の特派員でもあるドミニカ・ジョルダノさんだ。
5月を過ぎた頃から、現地の戦況に大きな変化が見られないこともあり、首都キーウには、徐々に人が戻りつつあるという。一方で、物流の停滞やビジネスの不安定さから物価の高騰といった問題が起き、現地におけるニーズには変化がある。
隣国に避難した人々も、慣れない外国生活を続けている。日本に避難したウクライナ人は、1615人に上る(7月25日現在、日本財団調べ)。
ジョルダノさんの日本人の友人たちは口々に「自分に何かできないか」と相談しにきていたという。
当初は「ウクライナ大使館に寄付するのがいいと思う」と話していたというが、その義援金がウクライナで武器購入にも充てられることを知り、抵抗感を持つ人が多かった。
「支援の仕方について、どの方法がいい、悪いということを言うつもりはない。むしろ、どうにかしたいという気持ちを、お互いに共有することが大切だと思った。日本とポーランドとウクライナの架け橋を作る機会をなんとかして作りたかった」とジョルダノさんは続ける。
そこでポーランド在住のジャーナリストを通じ、現地で避難しているウクライナ人家族を支援するための、チャリティイベントを開催することを思いついた。すぐに在日ポーランド広報文化センターも支持。40人近いボランティアの力を借りて、5月に食のイベントを開催。寄付金として45万円を集めることができたという。

■食の分かち合いは平和の象徴

イベント当日は、ジョルダノさんがウクライナやポーランド料理を振る舞った。食のイベントとして開催することには理由があった。一つは寄付に対して積極的でない日本人でも、美味しいものへの関心や共感の強い日本人にとって、協力を仰ぎやすいのではないかという理由だ。
そして、もう一つが「食」が、文化を共有する平和のシンボルになると考えたからだという。
ポーランドやウクライナは、長い歴史の中で国境が緩やかに変動され、さらに住民たちも行ったり来たりする文化を持ってきた。そのため、ポーランドとウクライナでは、「小麦」は、生活の中心にある。「日本人にとってお米が大切なように、小麦で作るパンを分かち合うことは、平和を分かち合うことの象徴だ」とジョルダノさんは話す。
ウクライナの青と黄色の国旗が、「空の青さと、黄金色の小麦」を表現したものだということを知っている人も多いかもしれない。そして、ウクライナ産の小麦が不足している今、世界の食糧事情に大きな影響を与えている。

■子どもたちの思い、絵に込めて
一方、アートを通じて日本人の関心を集め続けている人々もいる。ワルシャワ生まれの井上アンナさんが主宰する「ハートワン」では、鎌倉を中心に、ポーランドに避難しているウクライナ人母子を支援するための義援金の募金活動を行なっている。
継続的に活動を広げるために、「場と心」というテーマで、子どもたちが描いた絵を集め、ギャラリーで公開しているのだ。展示されている作品は、ウクライナ 、ポーランド、ロシア、日本の子どもたちのもの。現在9家族の支援をしている同団体は、主に食料や生活物資を、ポーランドで避難者を支えている人を通じて支援している。
こうした活動を通して、日本にいるからこそできる支援の仕方を模索することは、これからさらに重要になってくると感じる。長期化しているウクライナ情勢に対し、「共感すること」こそ、行動の原動力を生み出す一歩になるのではないか。