■記事のポイント
①イスラエルのアグリテック企業が日本の田んぼで点滴灌水の実証実験を行う
②国内農業のGHG排出量のうちメタンガスは46%、半分以上は稲作由来に
③乾いた土壌に点滴チューブで灌水することで排出を抑制する
イスラエルのアグリテック企業・ネタフィムの日本法人が秋田県と長野県の2拠点で点滴灌水を導入した稲作の実証実験を行う。点滴灌水は乾いた土壌に点滴チューブを設置して、作物に直接必要な最小限の水と液体肥料を与える。従来の水田栽培は空気に触れず酸素がすくない土壌のなかで有機物を分解する際にメタンを生成する「メタン生成菌」が存在する。点滴灌水によって土壌を乾いた状態に保つことで、メタンガスの発生を抑制する。(オルタナ編集部・萩原哲郎)

■世界110カ国に展開
ネタフィムは1965年に創業した。イスラエルの砂漠の砂地で砂地に挑んだことがきっかけとなった。現在は110カ国で展開していて、日本でもネタフィムジャパン(東京・中央)が1996年より事業を行う。
稲作分野での点滴灌水システムの導入はトルコとウクライナで400㌶の実績がある。それ以外にも面積は不明だが、インド、中国、台湾、イタリア、スペイン、米国、ブラジル、セネガル、フィリピンで栽培試験を行う。導入目的は多岐にわたり、増収や節水、温室効果ガスの発生削減、省力化や傾斜地の栽培などがある。
■地球温暖化対策が農業でも課題に
地球温暖化対策は農業が抱える課題のひとつだ。農林水産省によると、日本の農林水産分野におけるGHG排出量は国内総排出量の約4%の4747万㌧(2019年度)。そのうちメタンガスが占める割合は46.2%。稲作由来は半分以上を占める。メタンガスの温室効果はCO₂の25倍だ。
■乾いた土壌で栽培、メタンをゼロへ
今回、ネタフィムが取り組む実証実験はこの課題解決を目指す。
地球温暖化緩和では、メタンガスの生成を限りなくゼロへ低減させる。
水田の土壌の中は空気にふれず酸素が少ない環境となる。そのような環境では土壌や肥料が分解して二酸化炭素や酢酸が生じる。それらからメタン生成菌の働きによってメタンが生成される。メタンは稲の中にある空気の通り道を伝って大気中に放出される。
点滴灌水は乾いた土壌に点滴チューブを設置して灌水をして、必要最低限の水と液体肥料を与える。土が常に空気に触れていて、メタンガスの発生を抑制する。
ネタフィムジャパンで、輪作や灌漑などの専門的知識を有するアグロノミストの田川不二夫氏は「日本での販売価格は1㌶あたり130~200万円ほどです」と話す。ただし井戸や畑地灌漑施設のような加圧された水源がない場合は、別途貯水槽や送水ポンプ、電源の設置が必要になる。
■米の品質向上や酒米生産にも
今回の実証実験では秋田県と長野県の生産者が協力したことによって実現した。
ネタフィムジャパンのジヴ・クレメール社長は「実証実験の結果を見て、コストや雑草対策、装置の設置や回収の手間などの課題を洗い出して対策し、次のステップへ進みたい」と話す。
2023年は実証する田んぼの面積を拡大し、2024年にシステムの実売を目指す。加えて、灌水や堆肥の最適化ができる点滴灌水のメリットを活かして米の品質向上や、栽培が難しい酒米生産にも乗り出す構えだ。