■記事のポイント
①スイスは欧州の中でも、ドイツなどと並んでEVの普及が進んでいる
②しかし国土の約70%を占める山間部では充電インフラの普及が不十分
③EVによるアルプスの走破は可能なのか、在独ジャーナリストが確かめた
空気が澄んだ印象の強いスイスアルプス。しかし、山岳地帯の主要道路は空気の流れが悪い谷間を走っており、排気ガスによる大気汚染問題を抱えている。そこで期待されるのがEVだが、筆者の印象ではスイスの普及はまだまだで充電施設の数が不十分だ。特に山岳地帯の事情は厳しいが、あえてEVを使った1週間の旅行に挑戦してみた。(在独ジャーナリスト・松田雅央)

■山岳地帯の走行性能は満足、充電施設が課題
今回は、フォルクスワーゲンのエントリーモデルである「ID.3」(航続距離約330km)で、スイスアルプスを中心に約1300kmを走破した。全体を通して、走行性能には全くストレスを感じなかった。
筆者の住むドイツ・カールスルーエからスイス・バーゼルを経由して、アルプス地方を目指した。速度制限のないドイツの高速では時速160kmで巡航し、山岳地帯では数百メートルの上り下りを繰り返すようなルートを走った。変化に富んだ走りをする中で、バッテリーがどのような挙動を示すか不安はあったが、問題はなかったと思う。
しかし、航続距離の短さと、充電にかかる手間と時間は如何ともしがたい。ガソリン・ディーゼル車であれば3~4回の給油で済むところを、15回の充電を強いられた。今回は充電施設がどれだけあるのか調べるのが目的だったため、あえて多くの施設を回るルートにした。しかし、通常でも10回程度は必要だっただろう。
気になる充電料金は施設によって0.56~0.68スイスフラン/kWh(※)とバラつきがあった。料金の高低と給電出力にはあまり関係が無いようで、出力最小(5.5kW)の小さな充電ボックスと中速充電ボックス(50kW)の2ヵ所が最高値だった。事業者がどのような基準で料金を定めているかは分からない。
※1フラン≒143円
■キャンプ場の一般コンセントで充電
旅の行程では、2ヶ所のキャンプ場に滞在した。いずれも一般コンセント(230V)を利用できたが、EV用ではないため充電速度は遅い。バッテリー表示55%から満充電まで「15時間」との表示には、思わず脱力した。
キャンプ場のコンセント使用料は1日6フランだが、EVの充電には一律12フランの追加料金が発生する。これはエアコンを搭載したキャンピングカーに対するもので、それをEVにも適用しているらしい。初日はさておき、毎日多量に充電するわけではないドライバーにとっては割高で、一律価格には疑問を感じる。
キャンプ場の係員にEV利用客がどの程度いるのか聞いたところ、「ほとんどいません。1シーズンに2~3台かな」との答えが返ってきた。スイスアルプスをEVでキャンプ旅行するには、まだインフラが未整備と言わざるを得ない。
一方、スイスアルプスではガソリン・ディーゼル車を制限あるいは禁止し、許可を得たEVのみ走行できる観光地がいくつかある。今回立ち寄った山岳リゾートの街・Riederalp(リーダーアルプ)もその一つだ。
リーダーアルプは約2000mの標高にあり、下の街との行き来はロープウェイに頼っている。険しい岩山の多いアルプスでは、このような地理条件の村や町が結構存在する。
こじんまりした町内の移動手段は徒歩、自転車、EVタクシー、EVバス、冬はスノーモービルに限られ、公共充電施設は無い。いわば陸の孤島のような地域の小さく閉じた交通システムの中で、EVが活躍している。「排気ガスを出す車は走らない」がモットーなので、ハイブリッド車も走ることはできない。

■データ上は「EV優等国」のスイス
冒頭で「スイスのEV普及はまだまだ」と私感を述べた。しかし各種データをみる限り、欧州の上位3分の1に入るレベルにある。