コベストロ、35年にスコープ1・2でネットゼロ

世界最大級の化学素材メーカー、コベストロ(本社ドイツ・レヴァークーゼン)のマーカス・スタイレマンCEOが来日した。サーキュラーエコノミー戦略についてのこれまでの取り組みと今後の展望について記者団に語った。化学素材メーカーの世界的大手は、2035年までにスコープ1、2におけるGHG実質ゼロを掲げる。石油由来ではない代替原料の使用や、再生可能エネルギー、リサイクルの3本柱で目標達成を目指す。カーボンニュートラルなプラスチックの付加価値を高めていくため、コンソーシアムなどを通して技術革新にも挑む。

サーキュラーエコノミー戦略についてマーカス・スタイレマンCEOがこれまでの取り組みと展望について会見(東京、2022年8月17日・水に開催)

■循環型経済へ、アクセル踏む

コベストロは世界最大級の化学素材メーカーだ。2015年に独バイエルから分離独立して、フランクフルト証券取引所に株式上場した。2018年にはドイツ企業の主要40銘柄を対象とした株式指数のDAXに採用。2021年の売上高は159億ユーロとなり、前年度比48.5%増での着地となった。グローバルに事業を展開しており、グループ従業員数は1万8000名を数える。

日本では、住友化学・DICとの各合弁会社を含む4法人の下、3つの生産拠点(新居浜、堺、筑波)、2つの研究開発拠点(尼崎、川崎)、営業拠点(東京)を有する。バイエル時代含め50年以上にわたり事業展開する。

事業領域は多岐にわたる。取り扱い商品はポリウレタン、ポリカーボネート、光ファイバーコーティング材、モビリティやエレクトロニクスで使用されるフィルムなどだ。

プラスチックは海洋プラゴミや温暖化の原因として取り上げられることも多い。コベストロは2020年に「We Will Be Fully Circular(完全な循環型経済へ)」というビジョンを発表し、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行にアクセルを踏んだ。そして2022年、2035年までにスコープ1(事業者自らによるGHGの直接排出)、スコープ2(他社から供給された電気、熱などの使用に伴う間接排出)の実質排出ゼロ(クライメイト・ニュートラル)を表明した。

■パーパスが基点、環境と生活の課題解決

同社が掲げるパーパスは「世界を明るくより良い場所に」だ。スタイレマンCEOは「プラスチックは人類の生活水準の向上に大きく貢献してきたが、その一方で課題も出てきた」と語る。それは「プラスチックが化石由来の原料を使用していること」だ。

世界では干ばつや気候変動などの課題を抱える。その一方で人口増加も著しい。『世界人口統計2022年版』によると世界人口は今年中に80億人に達することが予測され、2080年代には約104億人に達するという。より多くの人が生活を豊かにしようと、飲料水や食料、医療などへのアクセスを求める。

「コベストロはサーキュラーエコノミーを実現することによって、こういった様々な課題を解決していくソリューションを世界へ提供していく」(スタイレマンCEO)

■施策は3本柱、協業も生かす

ケミカルリサイクルの研究・開発進める

具体的な施策は3つある。化石由来ではない代替原料の使用、再生可能エネルギーの活用、そしてリサイクルだ。

プラスチック産業は世界のGHG排出量の3.5%を占める。これに対してスタイレマンCEOは「合理的、理性的に考えれば、有限な資源を原料とすることは持続可能でない」と指摘する。そこで同社ではバイオマスやグリーン水素、あるいは使用済みプラスチックを原料として活用したプラスチック製造に取り組む。

バイオマスではマスバランス認証「国際持続可能性カーボン認証」を受けたフェノールやベンゼンからポリカーボネートや硬質ポリウレタンフォーム原料の製造に使用している。2022年2月にはバイオ原料ベースのフェノールとアセトンの供給を受けることで三井化学、三井物産と合意した。

プラスチック製造に水素は欠かせない。ただその水素は石炭、水、ガスによって生産された合成ガスだ。そこでニュートラルなグリーン水素を調達する。オーストラリアに拠点を置く世界的なグリーンエネルギー企業、FFI社から最大10万トンのグリーン水素とその誘導体の供給を受ける契約を締結した。

早ければ2024年から供給が開始され、水素又はその誘導体のアンモニアとしてヨーロッパ・北米・アジアの生産拠点に輸送することを予定している。

再生可能エネルギーの活用にも積極的に取り組んでいる。たとえばベルギーの拠点では2021年よりフランスの再エネ大手・ENGIEより陸上風力発電から電力を調達。ベルギー・アントワープの拠点で必要な電力の45%をまかなっている。

中国の拠点は今年から同国の再エネ企業の太陽光発電から電力を調達している。スタイレマンCEOによれば「中国・上海の拠点で必要な電力の10%相当」だとしている。またドイツにおいても、2025年からオーステッド社の洋上風力発電から電力供給を受け、電力使用量の約10%をまかなう。

リサイクルにおいても、革新的な取り組みを行う。同社の行うリサイクルはケミカルリサイクルとメカニカルリサイクルだ。スタイレマンCEOは次のように説明する。

「メカニカルリサイクルは熱を加えて性質を変えるものであるが、全ての化学品に適用することができない。一方で、ケミカルリサイクルとは、廃棄物を分子に分解して、製品の原料などに再利用するリサイクル方法である」

「当社はすでに、マットレス等に使用されている軟質ポリウレタンフォームのケミカルリサイクルに成功しており、これからは、冷蔵庫等の断熱材として使用されている硬質ポリウレタンフォームのケミカルリサイクルの開発を進めて行く。当社では新たな技術の開発も進めており、現在20以上の研究開発プロジェクトが動いている。他社とコンソーシアムを組むことで、幅広い技術的アプローチを進めていく」

日本でも大学研究機関と連携し世界に先駆けたケミカルリサイクルの研究を進めるなど、この取り組みを加速している。

■排出ゼロ支援、CQを打ち出す

同社ではこのようなサーキュラーエコノミーの輪を広げる取り組みも行う。それがCQ(サーキュラーインテリジェンス)だ。これまでコベストロで培ってきた知見を生かして、顧客企業にとって最適な方法での実質的なGHG排出ゼロを支援していく。また2023年にはスコープ3の目標も表明する予定だ。

課題もある。スタイレマンCEOは「サステナブルな製品を使いたいが価格面で折り合わない、という声もある。この価値をマネタイズしていかなければならない」と話す。サーキュラーエコノミーとGHG排出実質ゼロのブランディングが焦点になりそうだ。

(PR)コベストロジャパン株式会社 https://www.covestro.com/ja/company/covestro-worldwide/japan

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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