記事のポイント
- アルプスなどスイス国内の氷河が、1931年からの85年間で半減した
- スイス政府は、氷河縮小が水力発電の拡大につながるという見解を発表
- しかし氷河縮小は気候変動の一部に過ぎず、風力発電への影響などに懸念も
気候変動の影響で、スイスなどのアルプス山脈の氷河の縮小が止まらない。これを「水力発電を増やす機会」とする研究結果もある。しかしこれは気候変動の一部をとらえたに過ぎず、実際は欧州の広範囲に深刻な影響をもたらしている。(在独ジャーナリスト・松田雅央)

■85年間で半減、2090年代にはほぼ消滅
アルプス各所の展望ポイントに設置された案内板の写真と、目の前に広がる実際の氷河を見比べると、その縮小ぶりに驚かされることが少なくない。たった10年程度で、目に見える変化が起きているのだ。
スイス連邦工科大学と連邦森林・雪・景観研究所の研究チームは22年8月、1931年から2016年までの85年間でスイス国内の氷河が半減したという調査結果を発表した。2016年以降はペースが加速し、この6年間でさらに12%の氷河が消えたという。
2011年7月には、スイス・フリーブル大学の地球科学学部が、2090年代に氷河が2011年当時の1割程度までに縮小すると警鐘を鳴らしていた。
同大学によると、氷河はアルプス圏を超えた広域で豊富な水を供給しており、中央ヨーロッパの主要河川とされるポー川では約20%、ライン川では約7%、ドナウ川でも約3%を氷河の融解水が占めているという。
調査結果の発表から11年が経った現在、氷河の縮小が欧州に水不足をもたらすリスクが懸念されている。
■スイス政府は水力発電拡大の機会に
スイスでは、氷河縮小に適応しようという動きもある。エネルギー政策をつかさどる政府機関であるスイス連邦エネルギー局(SFOE)は2018年、対応次第では国内の水力発電量を増やすことができるという見解を示した。スイスは国内発電の60%割以上を水力に頼り、2050年までに発電量を4%増加させる目標を掲げている。
もちろん氷河縮小を歓迎するものではなく「苦肉の策」かもしれないが、どのような理由で水力発電の増加につながるのだろうか。