記事のポイント
- 世界ウイグル会議のドルクン・エイサ総裁らが来日し、9月30日に日本外国特派員協会で記者会見を開いた
- エイサ総裁は「アパレル企業はいまだ新彊綿を使い続けている」と批判
- 独研究者が行った同位体分析によると、アディダス、プーマ、ヒューゴ・ボスのシャツに新彊綿が使われている痕跡があった
世界ウイグル会議(本部・ドイツ)のドルクン・エイサ総裁らが来日し、9月30日に日本外国特派員協会で記者会見を開いた。ウイグル人の強制収容所から逃れた生還者、南モンゴルやチベット出身者も同席し、中国で起きている人権問題について訴えた。エイサ総裁は「アパレル企業はいまだ新彊綿を使い続けている」と批判した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「性暴力や虐待など、深刻な人権侵害がいまも続いている。手遅れになる前に日本政府にも行動を起こしてほしい」
こう訴えるのは、新疆ウイグル自治区ウルムチ市出身のケルビヌル・シディクさんだ。シディクさんは、職員としてウイグル人の強制収容所を体験し、海外に脱出できた唯一の生還者とされる。
シディクさんは大学卒業後、ウルムチ市内の小学校で中国語教師として20年以上働いていた。ところが、2017年3月に突如、ウイグル人の男性用強制収容所に中国語教師として派遣されることになった。そこで6カ月働いた後、女性用強制収容所に移送された。
強制収容所では、職員による虐待や性暴力が日常的に行われていたという。シディクさん自身も子宮内避妊具(IUD)の強制的な装着を3度経験し、50歳になった2019年には強制的に不妊手術を受けさせられた。「選択肢はなく、非常に怖かった」と振り返る。
シディクさんは2019年10月、夫や親戚を残して中国を脱出し、現在は娘が住むオランダで暮らしている。中国にいる家族とは連絡が取れない状況だ。
■同位体分析で「新彊綿」使用の根拠も
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月31日、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題に関する報告書を公表。テロ対策の名目で、ウイグル人やイスラム教徒の少数民族に対し、拷問や強制不妊といった重大な人権侵害が行われていると指摘した。
世界ウイグル会議のエイサ総裁は、「世界ではさまざまな人権問題があるが、中国で起きていることはレベルが違う。21世紀のいまでも、ウイグル人を弾圧し、『ジェノサイド(大量虐殺)』が起きている」と語気を強める。
「日本は民主主義国家であり、世界第三位の経済大国として、特にアジアで大きな影響力を持つ。日本政府はもっとこの問題に深くかかわるべきだ」(エイサ総裁)
米国政府は22年6月、「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」を施行し、新疆ウイグル自治区で全部または一部が、採掘・生産・製造された物品について米国への輸入を原則禁止する。欧州連合(EU)も9月、強制労働によって作られた製品を市場から排除する規制法案を発表した。
しかし、エイサ総裁は「アパレル企業は新彊綿をいまだ使い続けている」と批判した。
独ニーダーライン応用科学大学と独分析機関のAgroisolabは、独アパレル企業の製品を対象に同位体分析を行った。その結果によると、アディダス、プーマ、ヒューゴ・ボスのシャツに新彊綿が使われている痕跡があった。いずれの企業も新彊綿の排除を宣言し、取り引きしないことを表明している。
「中国政府の抵抗もあり、ウイグル問題は調査が難しいが、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)の報告書にあるように、ファーストリテイリングやしまむらなど、日本企業も加担している可能性が高い。強制労働によって生産されている製品があることに、もっと関心を持つべきだ」と訴えた。