記事のポイント
- 「労働者協同組合」の法人格取得を簡便にする法律が10月1日に施行された
- 出資・経営・労働の3つすべてを組合員が主体的に行うことが特徴
- NPOなどとともに、地域課題解決の担い手となることが期待されている
19世紀の英国に端を発し、「全員が経営者として働く」「全員が出資する」「地域ニーズに応える」非営利事業である「ワーカーズコレクティブ」を日本でも法人として認める「労働者協同組合法」が10月1日、施行された。日本では5万以上のNPO(特定非営利活動法人)があるが、これに加えて、社会課題の解決に向けた新たな枠組みが動き出す。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■500組織以上が生活や子育て支援などを行う
労働者協同組合とは、働く人(組合員)が出資・経営・労働の3つ全てを行う組織で、介護・福祉、子育て支援、商店会活性化など、地域に根ざしたさまざまな非営利事業を行う。同法ははじめて組合の運営や管理、法人化について規定した。
英国や欧州で活躍する「ワーカーズコレクティブ」のいわば日本版で、これにより組合の社会的認知度が高まり、NPOなどとともに地域課題解決の担い手として活躍が期待できる。「合同会社」のソーシャル版や、ソーシャル・ファームの一形態としても位置付けられそうだ。
労働者協同組合は3人以上の発起人で設立でき、組合員自らが出資し、経営に責任を持ち、労働も行う。出資金の額に関係なく「一人一票」の平等な議決権を持つことも特徴だ。
組合法は「持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする」(組合法第一条1項)と規定しており、労働者派遣を除くあらゆる非営利事業ができる。
非営利を目的とする活動を行う点はNPO法人も同じだが、NPOは特定非営利活動促進法(NPO法)により社員自らの出資が認められていない。
国内最初の労働者協同組合は1982(昭和57)年、神奈川の生活協同組合に参加する主婦が立ち上げた。その後、各地の生協を中心に広がり、全国で500組織以上(2020年現在)が活動している。
事業内容は「生活支援・家事・介護」、「弁当・食事づくり」、「子育て支援」、「配送・店舗など生協の委託」などが多い(「季刊 社会運動」2021年7月号より)。
■法人格取得でNPOと並ぶ地域社会の担い手に
これまでは労働者協同組合の法人化を規定する法律がなく、法人格を持たない「みなし法人」として活動するケースも多かった。そのため、法人税を納めながらコロナ禍の持続化給付金制度が適用されなかったが、法人化でこうした矛盾も解消できる。
社会的な信用が高まり、資金調達がスムーズになることも期待できる。労働契約も締結するため労働基準法、最低賃金法などの権利が保障されることもメリットだ。
今回の法施行で、同法が定めた要件を満たして登記をすれば法人格を取得できるようになった。NPO法人や企業組合のように行政による許認可を必要とせず、簡便に法人化ができる。
20年以上にわたって法制化を呼びかけてきた一団体である「ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン」の藤井恵里代表は、こう語る。
「こんな地域課題を解決したいと、地域の人々が自発的に事業を立ち上げて主体的に解決するのが、労働者協同組合の基本的な考え方です。そこで働く一人ひとりが主人公として尊重されることも、重要なポイントです。NPOは言うまでもなく、現在は自治体や企業も社会課題の解決を重視していますから、さまざまな主体との連携も考えられます」
厚生労働省 雇用環境・均等局勤労者生活課の水野嘉郎(よしお)労働者協同組合業務室長は、こう期待を寄せる。
「労働者協同組合は、住み慣れた地域で自分らしく暮らし、働きたいという人々のニーズに応え、一人ひとりの希望に応じた働き方、生き方の選択を可能にするものと考えています。地域社会の活力となり、潤いをもたらすよう、厚生労働省としても労働者協同組合について、より多くの方々に趣旨等を御理解いただけるように取り組んでいきます」
少子高齢化が進む現在、介護、障がい者福祉、子育てなど、地域課題解決の担い手が必要とされている。1995年の阪神淡路大震災でボランティア活動が注目を集めたことがNPO法の施行(1998年)につながり、現在は5万団体を超えるNPO法人が活動している。
同様に、今回の労働者協同組合法の施行を機に、労働者協同組合が地域社会の課題解決に存在感を示すようになる可能性は高い。