「ピースビルディングボンド」日本初、JICAが240億円発行

記事のポイント


  1. JICAは平和事業に用途を限定した債権「ピースビルディングボンド」を発行した
  2. 法人向けに240億円を発行し、主に紛争による難民・避難民の支援に使われる
  3. 他に個人投資家向けの「JICA SDGs債」(30億円・購入単位1万円)も発行

JICA(独立行政法人国際協力機構)は2022年7月、平和構築に向けた事業に資金使途を限定する日本初の債券「ピースビルディングボンド」(平和構築債)を240億円(期間10年110億円、20年130億円)発行した。(オルタナ総研フェロー=室井孝之)

UCDP(Uppsala Conflict Data Program) GEDマップ2021年のアクティブな州ベースの紛争

「ピースビルディングボンド」は、JICAのソーシャルボンドのひとつで、2008年度から「JICA債(国際協力機構債券)」を発行し、活動に必要な資金の一部を市場から調達してきた。

2016年度には、国内の債券発行機関(発行体)として初めて、社会的課題の解決に目的を限定した「ソーシャルボンド(社会貢献債)」を発行した。

続いて、2019年にTICAD債(アフリカでの事業に資金提供)、2020年に「新型コロナ対応債」、2021年に「ジェンダーボンド」(ジェンダー事業、女性のエンパワーメント事業に資金提供)を相次いで発行した。

「ソーシャルボンド(社会貢献債)」は、サステナブルファイナンスの一つの形態である。

サステナブルファイナンスは、「持続可能な社会と地球を実現するための金融」と解釈されており、「環境(E)・社会(S)、ガバナンス(G)課題の解決を目指して、様々な配慮を織り込んだ投融資(ESG投資・ESG金融)、債券発行、その他さまざまな金融サービスを含む広い概念」である。

集めた預金を元手に、銀行が誰にお金を貸すかを決めて提供するのが融資、私たち自身でお金を使ってほしい先を決めて提供するのが投資である。

投資の中にも、投資した企業のオーナー(持ち主)になれる株式と、ある期間まで企業などにお金を貸す債券がある。

「ピースビルディングボンド」(平和構築債)は、増加・長期化する紛争による難民・避難民の急増が開発途上国に重く圧し掛かり、貧困の大きな要因となっている状況に対処するためのソーシャルボンドである。

世界の武力紛争は、過去最高の56件となり、難民・避難民数は世界の80人に1人にあたる1憶人に及ぶ。開発途上地域が受け入れる難民の割合は9割、紛争の長期化により8割は5年以上避難している。

難民の出身国は、シリア680万人、ベネズエラ460万人、パキスタン270万人等であり、受入国はトルコ380万人、コロンビア180万人、パキスタン150万人などである。

ウクライナ避難民は、欧州へ避難した人が704万人、国内避難民697万人とされている。

「ピースビルディングボンド」の資金使途例は、トルコ国内のシリア難民及びコミュニティ向けの上下水道、浄水・排水処理施設、廃棄物処理施設などの社会インフラ整備支援やイラクの戦後復興支援など、世界各地の受入国での難民・避難民支援である。

「ピースビルディングボンド」は法人向けだが、JICAでは、2022年1月に、個人投資家向け債券の「JICA SDGs債」30億円も発行している。

「JICA SDGs債」は、JICAがSDGsの達成に向けて、開発途上国の社会課題の解決を支援するために行う事業に資金が充てられる個人向けの債券で、申し込み単位は1万円である。

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室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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キーワード: #ESG

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