記事のポイント
- 環境NGOが、インドネシアの森林保護区を開拓し違法に取られたパーム油を調査
- 2カ所の違法農園のパーム油を、8社のグローバル企業が調達していることを確認
- 背景には農園まで特定できないサプライチェーン上の問題や、RSPO認証の抜け穴
環境NGOのレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)はこのほど、インドネシアの森林保護区を開拓して違法に取られたパーム油が、サプライチェーンを通してグローバル企業に流れているという報告書を発表した。日清食品、ネスレ、ユニリーバなど、いずれもRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)に加盟している企業だ。それでも違法油を調達してしまうのは、農園までのトレーサビリティが不充分などの問題がある。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■炭素を貯蔵する泥炭地を開発して農園に
パーム油は、アブラヤシの果肉から取れる植物油だ。1990年代から需要が伸び、全世界の生産量は大豆油や菜種油をしのぐ。マーガリン、即席麺、パン、クッキー、チョコレート、スナック菓子、アイスクリームなど食品での使用が約8割を占め、石鹸、洗剤、塗料、化粧品などにも使用される。
農園の適地は赤道を挟む熱帯地域に限られ、インドネシアとマレーシアの2カ国が世界の85%を生産している。
RAN(本部・米サンフランシスコ)は1985年に設立。2009年から、世界最大のパーム油産地であるインドネシアの森林保護活動を行なっている。
RANは2022年5月、スマトラ島にある国の保護区「ラワ・シンキル野生動物保護区」で調査を行った。同保護区は、オランウータン生息地として知られる熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」(約260万ヘクタール※)の南部に位置する。
※=長野県・新潟県を合わせた面積とほぼ同じ
調査の結果、保護区を開拓した2カ所の農園で取られたパーム油を、大手消費財企業8 社が調達していることが明らかになった。インドネシア政府が指定した保護区を開拓して農園を作ることは、違法行為だ。しかし今回のように、地域の有力者である農園経営者がルールを守らないケースもあるという。
●ケース1
南アチェ州の違法農園(50ヘクタール=東京ドーム約10個分)で収穫したアブラヤシが仲介業者を通じて、保護区近くにある2カ所の搾油工場へ。コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、P&G、ユニリーバの調達先搾油工場リストに、この2工場が記載されていた。
●ケース2
アチェ州の違法農園(11ヘクタール)で収穫したアブラヤシが仲介業者を通じて、ケース1とは別の搾油工場(1カ所)へ。日清食品、P&G、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、ユニリーバの調達先搾油工場リストに、この工場が記載されていた。
RANはこの事実を、現地での聞き取り、衛生画像の分析、各社の調達先リストを元にしたサプライチェーン追跡によって明らかにした。特に問題視しているのは、農園が保護区内の泥炭地を破壊してつくられたことだ。RAN日本代表の川上豊幸氏は、こう指摘する。
「泥炭地は枯れた植物が水に浸かり、分解しないまま堆積したもので、いわば炭素の貯蔵庫です。私たちは『炭素爆弾』と呼んでいますが、泥炭土壌は空気に触れるだけで分解が進み、蓄えられたCO2を大気中に放出してしまいます」
世界自然保護基金(WWF)によると、泥炭地は地球の陸地面積の3%に過ぎないが、世界中の森林を合わせたよりも多くの炭素を蓄えているという。
■RSPO認証の中に違法なパーム油も
名前が上がった8社はいずれも、国際的なパーム油の調達方針である「森林破壊ゼロ、泥炭地ゼロ、搾取ゼロ(NDPE)」を掲げている。それでもなぜ、違法パーム油を調達してしまうのか。