記事のポイント
- 2022年ノーベル平和賞が10月7日に発表された
- 旧ソ連の民主化運動を進めるロシア、ウクライナ、ベラルーシの3者が選ばれた
- 批判の声もあがっているが、実績を紹介する
2022年ノーベル平和賞に、ベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏、ロシアの人権団体「メモリアル」、ウクライナの人権団体「市民自由センター」が選ばれた。「長年にわたり、権力を批判し、市民の基本的権利を守る活動を推進してきた」ことなどが受賞理由とされた。ロシアとウクライナの人権団体が同時受賞したことに批判の声もあるが、3者の実績を紹介する。(オルタナ副編集長=吉田広子)

ノーベル賞とは、ダイナマイトを発明した科学者アルフレッド・ノーベルの遺言によって創設された賞だ。物理学、化学、生理学・医学、文学、経済学、平和の5部門から成り、そのうち平和賞は、個人だけではなく団体も対象とする。
2022年ノーベル平和賞に選ばれたのは、ベラルーシの人権活動家アレシ・ビャリャツキ氏、ロシアの人権団体「メモリアル」、ウクライナの人権団体「市民自由センター」だ。
3者の受賞理由は、「母国の市民社会の代表として、長年にわたり、権力を批判し、市民の基本的権利を保護する活動を推進してきた」「戦争犯罪、人権侵害、権力の乱用を記録するために多大な努力を払い、平和と民主主義にとっての市民社会の重要性を示した」ことだった。
受賞者は賞金1000万スウェーデンクローナ(約1億3000万円)を分け合う。
■ベラルーシの独裁政権に立ち向かう
ビャリャツキ氏は1962年、ロシア連邦カレリア共和国ヴャルツィリャで生まれた。ベラルーシ文学の学者で、大学卒業後は教師として働いていたが、1996年に人権団体「ビャスナ(春)」を立ち上げた。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は1994年に大統領に就任して以来、強権的な体制を敷き、「欧州最後の独裁者」とも呼ばれる。6選を決めた2020年の大統領選では不正得票が疑われている。
こうした独裁政権に対し、ビャリャツキ氏は早くから抗議活動を行い、民主化運動に取り組んできた。投獄されたデモ参加者やその家族を支援し、政治犯に対する拷問を記録し続けている。
だが、ビャリャツキ氏は2011 年に脱税容疑で有罪判決を受け、3 年間投獄された。2014 年に釈放されたものの、2020年の不正選挙に対する大規模抗議活動中に、2021年、裁判を経ずに再び拘束された。今回のノーベル平和賞受賞は、ベラルーシの拘置所内で知らされたとみられる。
■30年にわたりロシアの戦争犯罪を記録
ロシアの人権団体「メモリアル」は、1987年にロシア・モスクワで設立された。ロシア国内だけではなく、ウクライナやカザフスタン、ドイツなど国外にも支部を持ち、旧ソビエト時代に処刑や投獄、迫害された人々や現在も続くロシアによる人権侵害の犠牲者の記録を集め、公開してきた。
国連難民高等弁務官事務所が難民への顕著な功績を残した個人や団体に授与する「ナンセン難民賞」も2004年に受賞している。
英BBCの報道によると、ロシアは2014年に同団体を外国の代理人(スパイ)に指定した。2021 年 12 月にはロシアの最高裁判所が、「外国の代理人法」に違反したとして、メモリアルとその地方支部の閉鎖を命じた。
ノーベル平和賞受賞後の会見では、メモリアルの幹部は「今後も人権活動を続けていく」との意向を示した。
■「プーチン大統領を裁判にかける必要がある」
ウクライナの人権団体「市民自由センター(CGS)」は、2007年にウクライナ首都キーウで設立された。弁護士のオレクサンドラ・マトイチュク氏が代表を務める。
CGS は、2014 年にロシアに併合されたウクライナ南部クリミア半島での政治的迫害を監視してきたほか、ウクライナ東部ドンバス地域での戦争犯罪と人道に対する罪を記録している。
2022 年 2 月にロシア・ウクライナ戦争が始まった後は、ウクライナの民間人に対するロシアの戦争犯罪を記録する取り組みを進めてきた。
受賞後の会見で、マトイチュク代表は、「ロシアのプーチン大統領をはじめ戦争犯罪者を裁判にかける必要がある」と訴えた。