「エシカル」ブランドの直営工場でベトナム人実習生パワハラ

記事のポイント


  1. 山梨の縫製工場で、ベトナム人技能実習生へのパワハラや給料未払い
  2. 工場は、「エシカル」をうたうファッションブランドの直営
  3. 支援するNPOは、人権侵害の温床となる技能実習制度をなくすべきと指摘

「エシカルファッション」をうたう縫製工場で、ベトナム人技能実習生の人権侵害が起きた。支援に取り組むNPO「POSSE(ポッセ)」が報告した。SDGs(持続可能な開発目標)や「メイド・イン・ジャパン」を掲げる現場でも外国人を使い捨てにする実態が明らかになり、人権侵害の温床となっている技能実習制度の意義が問われている。(オルタナ副編集長・長濱慎)

POSSEは人権侵害を受け、10月22日に都内で報告会を行った

■「自分が何者であるか考えなさい」と差別的なルールを強要

交渉が進行中のため社名は明かせないが、人権侵害は山梨県の縫製工場で起きた。「エシカル」をうたうファッションブランドの直営工場で、ベトナムから来た技能実習生はエアコンもヒーターもない一軒家に10人で住まわされていた。

改善を求めると社長や管理団体から威圧的な態度を受けた。有給を取らせてもらえない、契約通りの給料が払われないなどの労働基準法違反や、社長が無断で実習生宛の手紙を開封することもあったという。

工場では日本人も働いているが、技能実習生は独自の心構えを強要されていた。その内容は「エアコンなどの贅沢品をお願いする時、自分が何者であるか考えなさい」といった差別的なものだ。NPO法人POSSE の支援を受けた10人の実習生は労働組合に入り、改善を求めるよう会社側と交渉を始めている。

POSSEは2006年に設立。若者の労働・貧困問題や、コロナ禍で困窮する女性や外国人労働者の支援に取り組んでいる。技能実習制度の廃止を求める運動も行っており、今回の出来事を受けて10月22日に報告会を開いた。

■「SDGs目標8」と矛盾する技能実習制度をやめるべき

この縫製工場で作っているのは1着数万円のワンピースで、メーカーはSDGsや「環境に配慮した素材」「国内の自社工場で縫製」をアピールしている。エシカルをうたうファッションの現場で、なぜ人権侵害が起きてしまうのか。POSSEメンバーの田所真理子ジェイさんは、オルタナ編集部の取材に対しこう語った。

「エシカルな商品をつくりながらも利益を出さなければならない。そのためには、コストカットが必要だという発想があったのだと思います。今回のケースでは縫製のスキルを学ぶためにベトナムから来た技能実習生を、安価な労働力としか見ていなかったのでしょう」

POSSEの田所真理子ジェイさん

同じくPOSSEスタッフの岩橋誠さんは「人権侵害が起きているのは、バングラデシュ・ラナプラザのようなファストファッションの海外生産現場だけではない。高級な服をつくる日本国内でも同様の問題がある」と指摘し、技能実習制度そのものを見直すべきだと語る。

「SDGsの目標8『働きがいも経済成長も』は、強制労働の根絶をうたっています。技能実習制度はこれと明らかに矛盾しており、企業は依存すべきでありません。その上で自社のサプライチェーンを全て開示し、人権侵害が明らかになった場合は真摯に受け止めて対応するのが大前提だと思います」

POSSEの岩橋誠さん

技能実習制度の目的は技術の移転で、日本で学んだ技術を母国に帰って役立ててもらうものだ。技能実習生は「実習」のために来日しているであり、労働力ではない。しかし現実には、来日前に借金を背負わされる、転職が制限される、改善を求めると帰国を強要されるなど、多くの人権侵害が報告されている。

技能実習制度を批判する声は国外でもあがっている。米国務省は「人身売買に関する報告書」で、2021年に続いて今年も「強制労働が行われている」と指摘した。

S.Nagahama

長濱 慎(オルタナ副編集長)

都市ガス業界のPR誌で約10年、メイン記者として活動。2022年オルタナ編集部に。環境、エネルギー、人権、SDGsなど、取材ジャンルを広げてサステナブルな社会の実現に向けた情報発信を行う。プライベートでは日本の刑事司法に関心を持ち、冤罪事件の支援活動に取り組む。

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キーワード: #ビジネスと人権

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