2030年の未来はバックキャストで描く、自然界にもヒント

記事のポイント


  1. フェアウッドにこだわる家具メーカーのワイス・ワイスがフォーラムを開催
  2. 石田秀輝・東北大学名誉教授はバックキャスティングの重要性を説く
  3. 自然界から学ぶ「ネイチャーテクノロジー」にもヒントがあるとした

家具メーカーのワイス・ワイス(東京・渋谷)は11月10日、「WISE FORUM 2022」の第二弾として「サステナブルな未来を日本から」を開いた。「ネイチャーテクノロジー」を提唱する石田秀輝・サステナブル経営推進機構理事長(東北大学名誉教授)は、講演で「地球環境と従来の資本主義は限界にきている。我慢ではなく、心豊かにライフスタイルを転換するために『バックキャスティング』思考が重要だ」と話した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

ワイス・ワイスは、1996年の創業以来、伐採地の森林環境や地域社会に配慮した木材(フェアウッド)にこだわって、家具作りを行ってきた。同社は2013年、「豊かな暮らし」をコンセプトに、WISE FORUM (ワイズフォーラム)をスタート。これまで、環境や幸福、教育などをテーマに開催し、累計約1400人が参加した。

「WISE FORUM 2022」第2回では、独自のサステナブル資本やネイチャーテクノロジーを提唱する石田秀輝・サステナブル経営推進機構(SuMPO:さんぽ)理事長が、「縮む豊かさが未来のか・た・ち」と題した講演を行った。

石田理事長は、「いまの市場原理主義では、経済が成長するほど地球環境が劣化する。人間が生み出した人工物が地球を覆い、気候変動問題は深刻化し、地球環境は限界にきている。これからは、地球環境の制約があるなかで、『縮減』して新しい経済システムを導入しなければならない」と危機感を示す。

「水のいらない風呂」、昆虫の生態から発想

では、どのように変革を進めるのか。

石田理事長は、「我慢するのではなく、思考の転換が必要だ」とし、ありたい未来像を基点にして道筋を描く「バックキャスティング」思考の重要性を説いた。反対に、現状から改善策を積み上げることを「フォアキャスティング」という。

例えば、水資源問題と2030年の「入浴」を考えてみる。節水するには、「入浴回数を減らす」「シャワーにする」などが挙げられるが、これらは現状できることを考えるフォアキャスティング思考だ。

バックキャスティング思考では、まずはありたいライフスタイルや社会の姿を描く。「毎日お風呂に入りたい」ということを踏まえると、「水のいらない風呂」という発想が出てくる。

しかし、それをどう実現するのか。石田理事長は、INAX(現LIXIL)で研究開発をしていたころ、動物や昆虫がどうやって体を洗っているのか、注意深く観察した。その結果、アワフキムシの生態をヒントに、「水のいらないシャボン玉のお風呂」というアイデアが生まれた。

こうした自然界から学ぶモノづくりは「ネイチャーテクノロジー」と呼ばれる。

石田理事長は「コロナ禍では制約があるなかで、人々は工夫しながら、ライフスタイルやビジネスを転換した。その結果、一時的ではあるがCO2排出量も約20%減少した」と話す。

「環境と成長を両立させた新しい暮らしの形を考えるとき、『完全介護型(依存型)』では楽しくない。人間は、家庭菜園やDIYなど『ちょっとした不自由さ』を知恵や技を使って乗り越えることで愛着や達成感がわく。それこそが、自然の循環と同化できる唯一の持続可能な暮らし方であり、『縮む豊かさ』ではないか」(石田理事長)

後半のパネルディスカッションでは、石田理事長とともに、森林認証であるFSC認証の普及啓発に取り組むFSCジュニア・アンバサダーの高校生、河野絵美佳さん(FSCジャパン)、長野麻子さん(モリアゲ)が、持続可能な未来を実現するために何ができるのかを議論した。

「WISE FORUM 2022」第3回は、「世界が求める日本のデザイン」をテーマに、2023年 1月19日に開催される。申し込みはワイス・ワイスのウェブサイトから(参加費は無料で事前申し込み制)。

yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #生物多様性

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