国連とISO「ネットゼロ・ガイドライン」でウォッシュ排除

記事のポイント


  1. 国連とISOが温室効果ガス排出量の「ネット・ゼロ」を目指す企業や組織が参照可能なガイドラインを公開した
  2. 「ネットゼロ」という用語はまだ不明確な点も多い
  3. 「グリーンウォッシュ」に対処するための国際基準が求める声が高まっている

国連と国際標準化機構(ISO)は2022年11月11日、温室効果ガス(GHG)排出量の「ネット(実質)ゼロ」を目指す企業や組織が参照可能なガイドラインを公開した。11月6日からの「COP27」(第27回気候変動枠組条約締約国会議)でも、「ネットゼロ」に沿っているようにごまかす「グリーンウォッシュ」に対処するための国際基準が求める声が高まっている。(北村佳代子)

このガイドラインは、遅くとも2050年までに「ネットゼロ」を達成することで、世界の気温上昇幅を、産業革命以前の水準から「1.5℃以内」に抑えることを目指すグローバルな取り組みに、企業や組織が明確な基準で参画できることを目的に策定した。

「ネットゼロ」という用語はまだ不明確な点も多い。特に「カーボンクレジット」ではダブルカウンティング(二重計上)や不正も横行するとされる。「CCS(二酸化炭素の回収・地下貯蔵)やCCUS(回収・貯蔵・再利用)、DAC(ダイレクト・エアキャプチャリング=大気中からの二酸化炭素回収)などは商用技術が完全に確立していないとして、ネットゼロの手法とするか、なお賛否が分かれている。

昨年11月に英国で開いたCOP26(英グラスゴー)でも、国際環境NGOなどから「ネットゼロはゼロではない」などの意見が噴出し、会議で抗議する場面もあった。「気候変動問題は、GHGの純粋な削減によるものが本来であり、クレジットやCCSなどに頼るべきではない」との意見も根強い。

世界が排出するGHG温室効果ガスの約8割は、政府や企業・組織による「ネットゼロ」宣言がカバーしている。しかし、中には、その達成に向けた明確な戦略が示されていないケースも多い。

ISOは、3カ月をかけて、世界中から1200を超える組織や専門家を集め、ISOプラットフォームを通じて、「ネットゼロ・ガイドライン」の中核的な文書をまとめあげた。ISOのウェブサイトからは、全14章から成るこのガイドラインの閲覧や無料ダウンロードができる。すでに英語とスペイン語では公開されており、今後順次、その他の言語も追加される。

※ISOガイドライン(英語/スペイン語)のダウンロードページはこちら⇒
https://www.iso.org/obp/ui/en/#iso:std:iso:iwa:42:ed-1:v1:en

ガイドラインは、「ネットゼロ」や関連する用語の定義や説明や、目標に向けた行動計画、透明性のあるコミュニケーションや報告方法などを網羅し、組織のバリューチェーンにおける直接・間接のすべてのGHG排出量に対処するための行動を促進する指針となっている。

英国の国連気候行動の責任者であるナイジェル・トッピング氏は、「ネットゼロ・ガイドラインは、世界の関係者の足並みをそろえ、脱炭素に向けた野心を高め、環境破壊に対処するための中核的な参考文書として利用できる」と、このガイドラインの発行を歓迎した。

「ネットゼロ・ガイドライン」の作成に携わった国連イニシアチブ「Our 2050 World」の責任者ダン・バーロウ氏は、「ネットゼロのために何をすべきかという問いから、どれだけ早くネットゼロを実現できるかという問いへと移行しつつある」と、このガイドラインの意義を述べた。

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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キーワード: #脱炭素

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