記事のポイント
- 映画「孔雀の嘆き」が第35回東京国際映画祭の最優秀芸術貢献賞を受賞
- スリランカ女性が貧困ゆえに産む前から赤ん坊を換金する姿を描いた
- 監督は「スリランカが経験している社会的、政治的、経済的な問題の一つだ」
スリランカとイタリア合作の映画「孔雀の嘆き」が、第35回東京国際映画祭の最優秀芸術貢献賞を受賞した。妊婦たちをトラックの荷台に隠して運ぶシーンが印象的な同作では、スリランカ女性が貧困ゆえに産む前から赤ん坊を換金してしまう姿が描かれた。サンジーワ・プシュパクマーラ監督は、物語は実話に基づき、「スリランカがいま経験している社会的、政治的、経済的な問題の一つだ」と語った。(オルタナ編集委員=瀬戸内 千代)

■違法な養子ビジネスをテーマに
10月下旬から11月上旬にかけて開催された第35回東京国際映画祭のコンペティションには、107の国と地域から1695本の作品が応募し、選ばれた15本が上映された。うち8本がワールドプレミアで、「孔雀の嘆き」も世界初上映だった。
違法な養子ビジネスをテーマとしながらも、「人の行動には、なんらかの理由がある。100%の善人も悪人もいない」と監督が語る通り、登場人物たちの心根は優しく、悪役でさえも温かい。真の罪はどこにあるのか問い直したくなる展開で、善悪の境界線が揺らぐ。
本作のストーリーには、11歳で父親を亡くし10人家族の長男として非正規雇用で家族を支えた監督自身の厳しい生い立ちが投影されている。妹を病気で亡くした監督の祈りと願いも込められている。
■ウクライナの苛烈な状況描く映画も
コンペティション作品ではないが、ケアされるべき妊婦がないがしろにされる姿を苛烈な状況の中に描いたのが、同映画祭で上映された「クロンダイク」だ。
2014年のウクライナ東部での戦争を題材とする作品で、2022年に公開された。マリナ・エル・ゴルバチ監督は本作でサンダンス国際映画祭の監督賞を受賞している。
ウクライナ側につくかロシア側につくかで村人は二分されていくが、臨月が近い主人公は戦争に関心がない。命があまりに軽く扱われる戦争の残酷さが、生命誕生の尊さとの対比で浮き彫りになる印象的な結末である。
東京国際映画祭は今年も多くの国の多様な生き方を紹介したが、全国上映となる作品は少ない。ジュリー・テイモア審査委員長は、「自分から抜け出して他人の身分になってみたり他人の人生を歩んだりする経験によって自分を豊かにしてくれる」と映画の価値を強調した。