記事のポイント
- 重工業分野と経団連は気候政策に後ろ向きな働きかけを行っている
- 英シンクタンクが日本の気候政策に対する企業のロビー活動を分析した
- 経団連の内部で業界の声が平等に反映される仕組みを作ることを訴えた
英・シンクタンクのインフルエンス・マップ(InfluenceMap)はこのほど、IPCCや国際機関が明示した科学に基づく政策に対して、企業がどの程度整合した働きかけを行っているか分析した。日本の50の業界団体と20の大企業に関する5500以上のエビデンスを収集した結果、重工業と経団連が最も戦略的に働きかけを行っていることが明らかになった。しかし、その働きかけは科学に基づく政策と整合しているとは言い難い。(武井 七海)

企業に求められている気候変動対応は、サプライチェーン全体の排出量を減らすことだけに留まらない。Climate Action 100+ (CA100+)などの団体は、企業の政策関与(ロビー活動)をIPCCや他の国際機関が明示した科学に基づく政策に整合したものにするよう呼びかけている。
例えば、政府の脱炭素目標に対して、野心を低めるような政策関与を止め、逆に野心を高めるよう働きかけを行うことを求めている。英・気候変動シンクタンク「インフルエンス・マップ(InfluenceMap)」は企業の気候・エネルギー政策への働きかけに関するデータベースを作成し、それが科学に基づく政策にどの程度整合しているか分析している。
同社は11月25日、東京で記者会見を行った。報告された分析には、日本の50の業界団体と20の大企業に関する5500以上のエビデンスが用いられている。それらのエビデンスはすべて、審議会の議事録や企業のCEOの発言などオープンアクセス状態のデータを利用している。
分析結果から、重工業分野が業界団体を通じて、科学に基づいた政策とは不整合な働きかけを戦略的に行っていることが明らかになった。さらに、重工業分野が主要会員として所属する日本経済団体連合会(経団連)は、最も戦略的に働きかけを行い、その政策的な立場は科学に基づく政策とは整合しているとは言い難い。
2020年にインフルエンス・マップが行った分析結果と比較すると、ソフトバンクグループや日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)をはじめとする企業や業界団体が、より積極的で科学に基づいた政策により整合的な働きかけを行っている。しかし、重工業分野と比較すると、それらの働きかけは積極性に欠けている。
科学に基づいた政策に整合した政策関与を行う業界は、経済や雇用の70%以上を占めるのに対し、重工業分野のそれは15%以下である。それにも関わらず重工業分野は、日本の気候・エネルギー政策に大きな影響を与えている。
気候・エネルギー政策に関する経団連の見解が重工業分野と類似していることから、経団連が「経済界の意見」を代弁していると主張することに疑問を投げかけたい。
気候・エネルギー政策に日本の経済界を代表する意見を反映させるために重要な2つの点が、インフルエンス・マップの分析から明らかになった。
1つ目は、科学に基づいた政策に整合した政策関与を行う業界がより積極的に発信すること。そして、政策決定プロセスや経団連の内部で、業界の声が平等に反映される仕組みを作ることが重要である。