記事のポイント
- 政府は炭素の価格付け「カーボンプライシング」に二の足を踏む
- いわゆる炭素税と排出量取引の2つを指すが、財政の裏付けができていない
- GX実現には、柔軟性と実効性を前提にした高度な政治判断が必要だ
政府は炭素の価格付け制度「カーボンプライシング」(CP)をGX(グリーン・トランスフォーメーション)の中核に位置付けるが、導入には二の足を踏む。足元のエネルギー危機に翻弄され、「未来のあるべき姿」を描き切れていない。「30年46%減」の国際公約も迫る。脱炭素とエネルギーの安定供給の同時実現には、柔軟性と実効性を前提にした高度な政治判断が必要だ。(オルタナS編集長=池田 真隆)

「スピード感を持って具体的な案を出してほしい」——。11月29日、岸田文雄首相は再三に渡って強調した。場所は首相官邸、出席者には閣僚に加えて、十倉雅和・経団連会長、小林健・日本商工会議所特別顧問、伊藤元重・東大名誉教授ら13人の有識者が並ぶ。岸田首相自らが議長を務めるGX実行会議の会合だ。
岸田首相は6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画・骨太方針2022」で、GXを新しい資本主義の柱として打ち出した。政府はGX実現へのロードマップを描くことを目的に、同会議を首相官邸に置いた。
7月に初会合を開くと、エネルギーの安定供給と産業構造の変革について話し合ってきた。岸田首相が求める「経済成長に資するカーボンプライシング」を探った。
当初、足元の問題は電力の需給ひっ迫だった。石油危機以来のエネルギー危機には、「原発の最大活用」で対応した。安定供給に向けた方針が決まると、アジェンダは本丸の「産業構造の変革」に移った。
有識者から「エネルギー価格が高騰している中で、CPはあり得ない」という反対意見も出た。だが、「化石燃料依存から脱すべき」という意見が勝り、政府はCPの予見可能性を高めるシグナルを出すべきだという方針で一致した。
11月29日の第4回会合では、西村康稔・GX推進担当相が「成長志向型カーボンプライシング構想」の原案を提示した。岸田首相が求める経済成長に資するCPの基本原則や制度案をまとめたものだ。
■産業構造変革に10年で150兆円
原案ではCPの具体的な手法として2つ提示した。「炭素に対する賦課金」(いわゆる炭素税)と「排出量取引」だ。この2本柱でCPを導入し、産業構造の変革に必要とされる150兆円規模の投資を今後10年で民間から引き出したい考えだ。
原案では150兆円の投資先の内訳をこう記載した。再エネ(31兆円)、次世代自動車(17兆円)、住宅・建築物(14兆円)に加えて、水素・アンモニア(7兆円)、CCS(4兆円)、原子力(1兆円)などだ。
