記事のポイント
- 日本気候リーダーズ・パートナーシップが国連の「ネットゼロ基準」を翻訳
- 国連は昨年11月、10項目の提言からなる「ネットゼロ基準」を策定していた
- 企業担当者が気を付けたい3つのポイントを紹介する
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は2月2日、国連が定めた「ネット(実質)ゼロ基準」の翻訳版を公表した。国連は昨年11月、「グリーンウォッシュ」を防止するため、企業や金融機関、自治体など非国家アクターを対象に10項目の提言からなる「ネットゼロ基準」を策定していた。企業担当者が気を付けたい3つのポイントを紹介する。(オルタナS編集長=池田 真隆)
昨今、企業、投資家、自治体などの非国家アクターが2050年に「ネットゼロ」を宣言する動きが加速している。だが、宣言の内容にバラつきがあり、「グリーンウォッシュ」だと問題視されていた。
こうした状況を受け、アントニオ・グテーレス・国連事務総長は各国から専門家を招集し、非国家アクターを対象にした「ネットゼロ基準」の策定を命じた。専門家グループの名称は、国連の「非国家主体のネットゼロ宣言に関するハイレベル専門家グループ」。
17人の専門家からなり、日本からはJCLP共同代表である三宅香・三井住友信託銀行ESG企画推進部主管が就任した。
■「ネットゼロ」5原則からなる10提言を公開
ネットゼロ基準を策定するに当たり、5原則をまとめた。5原則は下記の通り。
1: 世界全体で2050年までにネットゼロを達成するための野心的な短期・中期的な排出目標が必須
2: コミットメントだけでは不十分。言動一致すべし。(投資を含む全ての行動)
3: 徹底的な透明性の追求。計画・進捗状況に関する非競争分野の比較可能なデータを共有すべし
4: 計画を科学に基づき作成し、第三者認証を得ることで信頼性を確立すべし
5: 全ての行動において公平性と正義を示すべし
この5原則を基にして、10提言を定めた。それぞれの提言について取り組むべき方針を示している。JCLPによる翻訳版は次の通り。
1: ネットゼロ宣言
ネットゼロ宣言は、組織のトップによって公表され、公正な形で割り当てられた責務(フェア・シェア)を反映したものでなければならない。2: ネットゼロに向けた目標の設定
バリューチェーン全体について5年毎の短期目標を設定し、具体策を示さなければならない。これらの目標と具体策は、IPCC又はIEAが示す1.5℃整合経路と整合する必要がある。3: ボランタリー・クレジットの活用
自主的炭素市場における信頼性の高い炭素クレジットは、バリューチェーン外の削減貢献として使用されるべき。中短期の排出削減量として計上されてはいけない。4: 移行計画の策定
非国家主体は、包括的なネットゼロ移行計画を公開しなければならない。5: 化石燃料の段階的廃止と再生可能エネルギーの拡大
ネットゼロ計画に化石燃料の新規供給支援を含むことはできない。化石燃料供給への新規投資の余地はなく、既存の資産の廃炉や撤退が必要。6: ロビー活動とアドボカシー活動の整合
いかなるロビー活動も、気候変動対策に反対するものではなく、それらを積極的に推進するものでなければならない。7: 公正な移行における人と自然
土地利用からの排出量が多い主体は、2025年までに、サプライチェーンを含む自らの事業や活動が森林破壊、泥炭地の消失、残された自然生態系の破壊に寄与しないよう手段をとらなければならない。8: 透明性と説明責任の向上
各主体は自ら設定した基準値と比較できる形で、毎年の進捗を公にしなければならない。それは独立組織によって検証されることが求められる。9: 公正な移行への投資
金融機関や多国籍企業が政府、多国間開発銀行、開発金融機関と協力し、一貫してより多くのリスクを引き受け、途上国のクリーンエネルギーへの移行に対する投資を大幅拡大する目標を設定するなど、開発のための新しい取り決めが必要である。10: 規制導入の加速に向けて
公平な競争条件を作り出すため、規制当局は、影響力の大きい民間の排出者を対象とした規制と基準の策定に着手すべき。各国は、国境や規制領域を超えて規制当局を招集する、「ネットゼロ規制に関するタスクフォース」を新たに発足させる必要がある。
■「ネットゼロを達成した」と記載する場合は、第三者機関の認証を
10提言のうち、企業担当者が気を付けたい3つのポイントを紹介したい。一つ目は、「1: ネットゼロ宣言の発表」と「2:ネットゼロ目標の設定」についてだ。